9/1 NBAバレエ団「HIBARI」/The River

2015年6月に初演して大好評を博した、NBAバレエ団の「HIBARI」が再演となった。日本では、バレエの新作の再演というのはなかなか難しいようで行われることがあまりないのだけに、快挙と言える。今年はひばりさんの生誕80周年という年でもある。

http://nbaballet.org/performance/2017/hibari/

初演の時にも観ており、その時の感想をかなり詳しく書いているので、こちらも併せて読んでいただければ。
http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2015/06/nbahibari-f758.html

大筋においては前回と演出は変わっていないのだけど、今回ナビゲーターは和央ようかさんに代わり、ミュージカルで活躍する綿引さやかさん。持ち前の清潔感と共に、歌唱力、華やかな存在感ともあって、しっかりと作品の世界の中に導いてくれる役割を果たしてくれた。

そして何より、NBAバレエ団によるパフォーマンスがパワーアップ。出演者の多くは前回も出演しているメンバーだけど、よりひばりさんの歌への理解が深まったような感じで、歌詞だけでなく、ひばりさんの人生における様々な想いを体現していた。技術的にも向上していて、このバレエ団が上り調子であることがうかがえる。出演パートがとても多くて、バレエ団の主力ダンサーほとんどが出演する作品であり、バレエ団の魅力も存分に味わえたし良いショーケースとなっている。

NBAバレエ団を惜しまれながら退団した岡田亜弓さんが「リンゴ追分」と「おまえに惚れた」で特別出演。桜色の着物ドレスに身を包んだ群舞を従えてキラキラした光を放つ若かりし日のひばりさんに扮した。躍動感あふれる「お祭りマンボ」では、前回も大活躍した高橋真之さんに加えて、スターダンサーズバレエ団から移籍した安西健塁さんが軽やかな跳躍、鮮やかな回転テクニックを披露。そして次々と愛する家族を失い孤独に打ちひしがれるひばりさんの苦悩を表現した「悲しい酒」の関口祐美さん。黒い布を効果的に使った独創的な振付の中で、身を引き裂かれるばかりの悲しみと孤独を、現代的に表現した。振付を行ったリン=タイラー・コーベットの舞踊語彙の豊富さ、まるでブロードウェイミュージカルのような華やかさとエンターテインメント性は、バレエファン以外にも受け入れられるものだ。

こうやって改めて観て/聴いてみると、ひばりさんの歌というのはダンサブルでモダンな感覚があること、そしてその歌声の多彩さと歌のうまさを実感する。「リンゴ追分」の東京ドームヴァージョンの現代的なアレンジは、病に倒れた後の彼女の復活のステージだけど、とても迫力があった。別れなど孤独を味わい、病に倒れて52歳という若さで亡くなった彼女だけど、この作品の幕切れはそれでもファンを愛し、愛されて幸せだったひばりさんの人生への賛歌として明るく終わっているところがいい。

リン=タイラー・コーベットは、「ガチョーク賛歌」の振付指導で来日した時に偶然ひばりさんについてのドキュメンタリー番組を観て、彼女に魅せられたという。それまであまりひばりさんを知らなかくて、ファンや関係者に遠慮しないで自由に創ったのが功を奏している。今回、海外から日本を訪れた外国人の方たちと観たのだけど、日本語のナレーションも理解できなければひばりさんのことももちろん知らなかったものの、大体の流れは理解していたし、彼女がエディット・ピアフのようなカリスマ性の高く悲劇にも見舞われた人生だったことも良く伝わってきて楽しんだとのこと。ナレーションを英語にして、海外で上演しても受け入れられる作品だと思う。

今回の再演は、初演を観て作品を気に入ったひばりファンの方々が、もう一度観たい、できればDVDも発売してほしいという願いに応えたものだそう。実際、ひばりさんのファンと見受けられる方も多数客席におり、アップテンポの曲では手拍子を送るなどして、とても作品を楽しんでいたようでこちらも嬉しくなってしまうし、そのうちの何人かはバレエの魅力を知って別のバレエ作品を観に来てくれることだろう。「HIBARI」はレパートリーとして大切に踊り継いでほしい作品だ。


同時上演は、アルヴィン・エイリー振付の「The River」日本のバレエ団による初演とのこと。デューク・エリントンが曲を書き下ろし、アメリカン・バレエ・シアターのために振付けられた作品。

人生を川になぞらえ、命が生まれてから生まれ変わるまでを描いた作品。生命が生まれる泉(spring)、ロマンティックな湖(Lake)、パワフルな滝(Falls)、激しい回転のある渦(Vortex)、喜びを表現した急流(Giggling Rapids)、といったパートで構成されている。ABTに振付けられているため、エイリーの作品にしてはクラシック・テクニックをふんだんに盛り込んでいるけど、音楽はエリントンのジャズだし、モダンダンスの感覚も取り入れられている。峰岸千晶さん、三船元維さんによる美しい”湖”、高度な技術を使った竹田仁美さん、新井悠汰さんによる”急流”も印象的だったけど、回転が多くて風を切るようなスピード感あふれるソロVortexを踊った勅使河原綾乃さんの踊りが、シャープで自信にあふれてセンセーショナルだった。このVortexは映画「愛と喝采の日々」の中で、主演したレスリー・ブラウンが踊っている。

なかなかアルヴィン・エイリーの作品は日本では上演されないし、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターも長いこと来日公演を行っていないので、貴重な上演だった。こちらもぜひカンパニーのレパートリーとして定着させてほしい。




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