マシュー・ボーン「白鳥の湖」の初演王子、スコット・アンブラー逝去

マシュー・ボーン振付の名作「白鳥の湖」の初演で王子役を繊細に演じ、その後もボーン作品に出演、また振付家としても活躍したスコット・アンブラーが亡くなりました。まだ57歳という若さでした。

https://www.theguardian.com/stage/2018/mar/23/scott-ambler-obituary

1960年に生まれ、19歳という遅い年齢でダンスを学び始めたアンブラーは、ランベール・スクールを卒業し、1991年にマシュー・ボーンのアドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(現在のニュー・アドベンチャーズ)に参加し、エッタ・マーフィットとともに重要なメンバーとなります。「The Infernal Galop」や「Town and Country」、そして「ハイランド・フリング(愛と幻想のシルフィード)」のジェームズ役、「くるみ割り人形」といった初期の作品に出演後、1995年に初演された「白鳥の湖」に出演しました。

アンブラーの王子は、女王に愛されず、高い社会的な地位にも関わらず自信を失って傷ついた青年が、真実の愛を求めてさまよっており、この深みのある複雑な役柄に魂を吹き込んだ彼の演技は、この作品を永遠の名作たらしめました。アダム・クーパーのカリスマ性あふれるザ・スワンと共に、ボーンの「白鳥の湖」はセンセーションを呼び、その名声は世界を駆け巡りました。

年齢を重ねてアンブラーが演じた役も変わっていき、「くるみ割り人形」の孤児院長や「ザ・カーマン」のラナの夫役、「シザー・ハンズ」のキムの父親役などを演じましたが、その高い演技力は常に大きな印象を残しています。単なる悪役にとどまらず、その役に思わず同情してしまうような弱さや優しさを感じてしまうのでした。

21世紀に入り、アンブラーは自ら作品を振付けたいという想いを抱くようになり、次第にニューアドベンチャーズの仕事から離れて、主に演劇の舞台での振付家として成功を収めるようになり、ロイヤル・シェイクスピア・シアターの作品の振付も手掛けました。その一方でボーンとの友情や協力関係は続き、2011年には、英国内数か所で上演されたボーンの作品「蠅の王」に、ダンス未経験者をキャスティングした際の振付指導者に任命され、素晴らしい手腕を発揮しました。このたび、ボーンは彼に「創立メンバーで副芸術監督」の肩書が与えました。

ニューアドベンチャーズの公式サイトでは、マシュー・ボーンによる、愛にあふれた追悼文を読むことができます。
https://new-adventures.net/news/scott-ambler-1960-2018-a-tribute

ボーン曰く、スコット・アンブラー以上にニューアドベンチャーズののレジェンドという肩書にふさわしいものはなく、その寛大な精神、やさしさ、忠実さ、誇りを持って仕事に取り組む姿勢、魅力的なエキセントリックさ、可笑しさは、彼と働いた人々にとっては伝説となっていたとのことです。

全てのニューアドベンチャーズの公演の中に、スコットの精神は息づいているし、カンパニーのメンバー全員に彼の素晴らしさを記憶し伝えて行ってほしいとボーンは語っています。

私もスコット・アンブラーの「白鳥の湖」の王子は映像ですが観ることができ、その演技によって何回も涙を流しました。彼の名演技は、アダム・クーパーの魅惑的な熱演とともにDVDにも収録されています。また、「シザーハンズ」「プレイ・ウィズアウト・ワーズ」「くるみ割り人形」といった作品では直に演技を観ることもできました。温かい人柄で多くの人々に愛された彼がこんなにも早く逝ってしまうとは衝撃ですが、今頃彼の魂は、ザ・スワンの腕に抱かれて安らかであることでしょう。

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