ピーター・マーティンス、セクハラ疑惑でNYCBとSABを休職

英米の映画界や音楽界などで、現在セクシュアル・ハラスメントが大問題となっています。

TIME(タイム)誌は、パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)に「沈黙を破った人たち」が選ばれ、性的嫌がらせや加害行動の被害経験について沈黙を破り、発言した人たちの勇気を称えています。
http://time.com/time-person-of-the-year-2017-silence-breakers-choice/
http://www.bbc.com/japanese/42261257

タイム誌は「今年の人」を発表する最新号の表紙に、様々な立場の女性を登場させ、性的加害行動がいかに社会全般に蔓延(まんえん)しているかを表現しています。


さて、この問題はバレエ界にも飛び火をしました。長年、ニューヨークシティ・バレエ(NYCB)の芸術監督として、そしてスクール・オブ・アメリカン・バレエの校長として、バレエ界に君臨したピーター・マーティンスが、セクシュアル・ハラスメントの疑いのため調査をされています。

New York City Ballet leader to take leave amid sexual, violence allegations
https://www.washingtonpost.com/entertainment/theater_dance/new-york-city-ballet-leader-to-take-leave-amid-sexual-violence-allegations/2017/12/07/9b4e4884-db7a-11e7-b859-fb0995360725_story.html

City Ballet’s Peter Martins Takes Leave of Absence After Misconduct Accusation
https://www.nytimes.com/2017/12/07/arts/dance/city-ballets-peter-martins-takes-leave-of-absence-after-misconduct-accusation.htm

木曜日に、NYCBは、マーティンスがバレエ団およびSABを、調査が完了するまで休職すると発表しています。

ワシントン・ポストは、元NYCBのソリストであるケリー・ボールが、彼が彼女に対して暴力を振るったという訴えに対して、マーティンスのコメントを求めました。ケリー・ボールは、やはり元NYCBのソリストで、現在はパシフィック・ノースウェスト・バレエの芸術監督であるピーター・ボールの夫人でもあります。

マーティンスは、彼女に暴力を振るったことを否認しながらも「現在行われている独立した調査が完了するまで、一時的にNYCBとSABを休職することを、経営会議のメンバーに要望しました」と答えています。

12月4日に、NYCBとSABが、マーティンスのセクシュアルハラスメントについて訴える匿名の書簡が贈られてきた結果、弁護士などで構成された土井栗の調査委員会が結成されたことが報道されています。また、SABが、調査が行われている間マーティンスは休職するとも発表しています。月曜日の時点では、マーティンスの妻ダーシー・キースラー(元NYCBプリンシパル)は、ノーコメントと報道陣に答えています。

「生徒たちの安全と健康が私たちにとって最優先です」とSABは発表し、「NYCBとSABの両方において、具体的ではないセクシュアルハラスメントを訴え出る匿名の書簡を最近受け取りました」「現在のところ、書簡の中に書いてあるセクハラ行為や、生徒の安全に問題を起こすような事態は見つけていません」


https://www.nytimes.com/2017/12/04/arts/dance/peter-martins-new-york-city-ballet.html

バレエ団の広報担当者は、2010年以来、このカンパニーでは、上司と部下の間のロマンティックな関係を禁止するポリシーがあると語っています。これに関連して、昨年、リンカーンセンターのプレジデントであったジェド・バーンスタインは、2回昇進させた部下の女性と恋愛関係にあったという匿名の通報があったのちに、辞職しています。

最近のインタビューでは、2人の元NYCBダンサーとSABの3人の元学生は、マーティンスはダンサーたちと寝ており、そのような関係を持っていることで彼女たちは良い役を得られていると語っていました。

バレエは、振付や指導のためにお互いの身体に常に触らなければならないという性質があります。マーティンスのような芸術監督は、特に若いこれからのダンサーに対しては非常に大きな権力を持っています。どのダンサーがいい役を得るかというキャスティング、そして誰が昇進するかを決める権限を持っているからです。

なお、1992年にマーティンスは当時まだ現役ダンサーだった妻ダーシー・キースラーを殴ってけがをさせたことで逮捕されています。キースラーは腕と脚に切り傷を負い、また青あざを作りました。この訴えは後に取り下げられました。2012年にマーティンスは酒気帯び運転で逮捕されています。さらに今年の8月には、マーティンスとキースラーの21歳の娘がドラッグを使用した上に窃盗をした件で逮捕されました。

マーティンスはデンマーク出身で、1970年にNYCBに移籍する前はデンマーク・ロイヤル・バレエのプリンシパルでした。長身で堂々とした体躯、エレガンスを持ち合わせて人気スターとなります。バランシンの亡くなった1983年にジェローム・ロビンスと共に共同芸術監督となり、1990年に単独の芸術監督に。以降バレエ団をまとめ上げてきました。バランシン、ロビンスを中心としたバレエ団のレパートリーを守りつつ、ウィールドン、ミルピエ、ペックなど若い振付家も育ててきており、バレエ界における貢献は大きなものがあります。

特に、マーティンスはジョージ・バランシン財団の最重要人物でもあるので、大きな権力を持っている存在です。ワシントン・ポスト紙は10人以上のダンサーをインタビューしましたが、彼を公的な場で批判することは恐ろしくてとてもできない、そんなことをしたら仕事を奪われると多くが語っています。特に、バランシン作品の振付指導をする権利を失うことが一番怖いことのようです。

ある元NYCB女性ダンサーが語ったことによれば、マーティンスに、ソリストに昇進をするにはどうすればよいかと尋ねたところ、このカンパニーには100人以上の団員がいるので、一人一人にはとても注意が行かないと。彼の目に留まるということは、性的な関係を持つことだと言われたと彼女は解釈したとのことです。

前述のケリー・ボールは、1989年にマーティンスは彼女の肩をつかんで廊下に引きずり出し、肩をゆすって彼の言うことを聞いていないと激しく非難したそうです。「私の首の周りに手を置き、首を絞めて叫んで、どついて去っていきました」同じ日の早い時間に、マーティンスは彼に口答えをした彼女のパートナー、ピーター・ボールをリハーサルで罵ったそうです。別の女性ダンサーが、マーティンスがケリー・ボールに暴力を振るう様子を目撃したと証言しています。ケリー・ボールは数年後、26歳でバレエ団を退団し、引退しました。

また、ABT、NYCBの両方で活躍したゲルシー・カークランドの著書「わが墓上で踊る」の中で、マーティンスが怒りのあまり、別の女性ダンサー、ヘザー・ワッツをパーティで階段の上から下まで引きずり下ろす様子を見たと書いています。

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バレエ界では、すでに71歳で27年間も芸術監督を務めてきた(共同芸術監督時代も含めると34年間)マーティンスの辞任は避けられないという見方があり、彼の後任が誰になるだろうかということも、注目されています。子の世界でのセクシュアルハラスメントは、マーティンスに限った話ではなく、もっと多くのケースが今後出てくることでしょう。



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