「スカートはかなきゃダメですか?」名取寛人

現在来日公演中のトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団に、初の日本人ダンサーとして入団した名取寛人さんが、自らの半生を語る一冊が、「スカートはかなきゃダメですか?―ジャージで学校 」

スカートはかなきゃダメですか?―ジャージで学校 (世界をカエル―10代からの羅針盤)
名取 寛人

理論社 2017-08-01
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女性として生まれながら、中学生ごろから自分の性に違和感を覚えるようになり、やがて男性として生きようとする名取さん。体操選手として活躍しスポーツ推薦で高校に進学した名取さんは、高校卒業後、真田広之さんなどが所属していたJAC(ジャパン・アクション・クラブ)に通い、その後ショーダンサーとして活動。本格的にダンスを学ぼうと渡米し、29歳にしてバレエと出会う。

体操で培った身体能力、そして大変な努力はしたものの、名取さんはバレエをニューヨークで一年半学んだだけで、男性ばかりの団員で構成されたトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団のオーディションに合格して団員となり、7年間活躍する。女性であることを隠して入団した名取さんは、やがて女性であることがディレクターにわかってしまい、性適合手術を受けて身体も、戸籍上も男性となった。

自分の性に違和感を持っていたものの、女手ひとつで彼を育ててくれた母親など家族の理解とサポートに恵まれ、そしてクラスメイトや学校も理解があり、少しやんちゃではあるものの伸び伸びと育った名取さん。回り道をすることもあったけれども、努力を重ねて、男性ダンサーとして活躍をするという夢に向かって悩みながらもひたむきに進んでいった。年間150公演も行い世界中をツアーするトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ(トロックス)で、生まれてはじめていじめを経験するけれども、そのことも自分の芸に集中するきっかけとなり、芸の肥やしとなった。

性適合手術も受けて、念願の男性となることもできたけれども、それでも本当に「男になった」わけではないという彼の言葉には重みがある。どんなに努力して、運に恵まれたとしても叶えられないことはある。そんな中で夢を追いかけること、自分らしく生きること、苦しい時にも物事のいい面を見ることでポジティブに生きていくということについて、この本は良い指針となると感じた。

この本を読むと、本当に名取さんという人は魅力的な人物であるというのが良く伝わってくる。中学、高校時代は人気者でよくモテたというのもわかるし、性別という大きな悩みを抱えながらも常に前向きで頑張る性格。この人柄が多くの幸運を引き寄せ、また素敵な出会いをもたらしてきたのだろう。やりたいことに向けてひたむきに努力してきた彼の生き方は、性に限らず悩める若い人(そして若くない人にも)に勇気を与えてくれる。率直で飾らない語り口、わかりやすい文章、とても読みやすい一冊だ。

トロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエの内幕、そして日本のバレエ界の問題点についても触れてある部分があり、そういった意味でもとても面白い本。

名取さんは、2011年より、Hiroto’s showを立ち上げ、自己表現を模索する傍ら、舞台の演出、プロデュースを手がけ自らの新境地にチャレンジし続けている。バレエスタジオN ballet artsを主宰。今もなお、進化し続けているその姿には敬服するばかり。

名取寛人さんのブログ
https://hirotontr.wordpress.com/

告白を受け同級生ら全面的にバックアップ 性転換のバレエダンサー、地元鴻巣で公演へ 市民ダンサーと共演
http://www.saitama-np.co.jp/news/2017/09/13/09_.html

“男だけのバレエ団”日本人団員が語る「女性だった過去」
https://jisin.jp/serial/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84/social/24679



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