ロイヤル・オペラハウスシネマシーズン 『真夏の夜の夢/シンフォニック・ヴァリエーションズ/マルグリットとアルマン』

ロイヤル・オペラハウスシネマシーズン2016/17、バレエの最後を飾る 『真夏の夜の夢/シンフォニック・ヴァリエーションズ/マルグリットとアルマン』 (9月1日より公開)の試写を拝見してきました。

http://tohotowa.co.jp/roh/movie/the_dream.html

フレデリック・アシュトン振付の3作品によるトリプルビルです。本編前に流れた映像では、出演者たちがアシュトン作品の魅力を語りました。


真夏の夜の夢 The Dream

【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【指揮】エマニュエル・プラッソン
【出演】高田茜(ティターニア)/スティーヴン・マックレー(オベロン)/ヴァレンティノ・ズケッティ(パック)/ベネット・ガートサイド(ボトム)/クレア・カルヴァート(ハーミア)/マシュー・ボール(ライサンダー)/イツィアール・メンディザバル(ヘレナ)/トーマス・モック(デミトリアス)

当初サラ・ラムがタイターニア役を予定されていたのが怪我降板で、高田茜が演じることに。先日も「バレエ・スプリーム」で最後のパ・ド・ドゥを高田さんは踊られたけれど、やはりオベロン役がスティーヴン・マックレーだとずっと映える。アシュトン特有の非常に素早い足の動き、上半身の捻じ曲げ、ピタッと音に合わせて止まるなどの難しい技術を楽々とこなしていた。ボリショイで学んだ高田さんは、とてもやわらかく雄弁な手足の動きをしていて、アシュトンとは相性が合わないのかな、と思っていたけど、確かに柔らかすぎるところはあったものの、これだけ音楽性もしっかりとしていて技術も見事だと気にならない。タイターニアは最初はインドの小姓さんにご執心で、それから薬草の作用でボトムに惚れこみ、最後はオベロンと愛を確かめ合うといった風にロマンティックさと少しの色っぽさが必要なのだけど、演技の面でも、高田さんはチャーミングで、ロバのボトムとのコミカルな絡み、ラストのとろけそうになっている愛の交歓と表現力豊かだった。そして高田さんも、マックレーも、とにかく軽やかなので、とても妖精っぽく見えるのが良かった。

スティーヴン・マックレーが素晴らしいのは、改めて言うまでもない。2007年に東京バレエ団へのゲスト出演で、ヨハン・コボーの代役としてアリーナ・コジョカルを相手にこの役を踊っているけど、あれから10年、大プリンシパルとなった。オベロンのメイクや衣装も良く似合うし、妖精王としての威厳もたっぷり。人間離れしたような高速シェネや軽やかな跳躍、見事な音楽性と素早い動きでも美しさを保ち続けられている。

ヴァレンティノ・ズケッティのパックは、いたずらっぽいキャラクター造形がしっかりできていて、やはり軽やかな跳躍を見せてくれた。オベロンと一緒に踊るところも、マックレーと息がとても合っている。ボトム役のベネット・ガートサイドは、ポワント使いも巧みで、ユーモラスなところに少しの悲哀も感じさせて良かった。また、恋人たち2組のコミカルな演技も楽しい。妖精たちのアンサンブルも、素早いアシュトン独特の動きをしっかりととらえていた。

ポワントをリハーサルするベネット・ガートサイドの映像


シンフォニック・ヴァリエーションズ Symphonic Variations

【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】セザール・フランク
【指揮】エマニュエル・プラッソン
【出演】マリアネラ・ヌニェス/ワディム・ムンタギロフ/崔由姫/ヤスミン・ナグディ/ジェームズ・ヘイ/トリスタン・ダイヤー

『シンフォニック・ヴァリエーションズ』はフレデリック・アシュトンの戦後まもなく振付けられ、今年で初演70周年を迎えるプロットレスの作品。幕間の映像で、初演キャストを務めたヘンリー・ダントンが登場した。御年98歳とのことだけど、驚くほどの美貌(今も現役で教えているそうだ)。当時は戦後間もないため、食料も不足しており、ダンサーたちはやせ衰えた状態で必死に踊ったとのこと。同じく初演キャストを務めたダンサーはマーゴ・フォンテーン、モイラ・シアラー、マイケル・サムズほか。

初演後70年経った『シンフォニック・ヴァリエーションズ』は、少々古さは否めないが、セザール・フランクの美しい音楽にぴたりと合った振付には、派手さはないけれども高度な技術と音楽性が要求される。男女3人ずつのペア。アシュトンならではの細かい音の合わせ方や上半身の使い方、観る音楽という趣の作品で、メーンのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフを始め、6人は完璧に踊りきった。


マルグリットとアルマン Marguerite and Armand
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フランツ・リスト
【指揮】クン・ケセルス
【出演】ゼナイダ・ヤノウスキー(マルグリット)/ロベルト・ボッレ(アルマン)/クリストファー・サウンダーズ(アルマンの父)/ギャリー・エイヴィス(公爵)

『マルグリットとアルマン』のこの公演で、ゼナイダ・ヤノウスキーが23年間のロイヤル・バレエでの現役ダンサーとしての活動に別れを告げた。幕間映像では、『白鳥の湖』、『エリザベス』、『不思議の国のアリス』、『冬物語』といった代表的な役柄の映像を見ながら、彼女はダンサー生活について振り返った。ヤノウスキーはマルグリットを演じるには知的過ぎるイメージがあるものの、深みのある演技で、死にゆくマルグリットの心情を演じて説得力があった。個人的にも、今まで観た『マルグリットとアルマン』の中では最も感動的なパフォーマンスに感じられた。美しく、賢く、そして儚く慎ましい女性像が伝わってきた。アルマンの父に対して切々と心境を訴える様子も切ない。パートナーのロベルト・ボッレは、サポートが実に素晴らしく、大柄なヤノウスキーを見事にサポートして彼女の大きさを感じさせなかった。ソロの技術にも全く衰えはなく、若い恋人役を情熱的に演じていた。40歳を過ぎているのに、奇跡の若々しさだ。

引退公演なので、カーテンコールも感動的だった。ロイヤル・バレエの男性プリンシパルダンサーたちが一人一人花束を持って感謝を表し、カルロス・アコスタも登場。そしてジョナサン・コープ、アンソニー・ダウエル、クリストファー・カーといった教師陣、リアム・スカーレット、ウィル・タケット、そして夫君のサイモン・キーンリーサイドらも次々に花束を持って現れた。また、舞台上にはモニカ・メイソン、そして私服で現れた現役ダンサーたちも。芸術監督のケヴィン・オヘアは、ヤノウスキーへの謝辞を述べるとともに、ロイヤル・バレエのプリンシパルとしては今日が最後だけど、今後もアーティストとしてロイヤル・バレエに貢献してほしいと語った。客席からも花が降り注ぎ、同僚やファンにどれほど彼女が愛されているのかが実感できて、じーんと感動が伝わってきた。

素晴らしいパフォーマンスだったけど、この映像はDVD化されないとのことなので、ぜひ映画館でこの感動を味わってほしいと思う。

公開予定
東京 TOHOシネマズ日本橋 2017/9/1(金) ~2017/9/7(木)
東京 TOHOシネマズ六本木ヒルズ 2017/9/1(金) ~2017/9/7(木)
千葉 TOHOシネマズ流山おおたかの森 2017/9/1(金) ~2017/9/7(木)
神奈川 TOHOシネマズららぽーと横浜 2017/9/1(金) ~2017/9/7(木)
ほか
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/the_dream.html

なお、既報の通り、ロイヤル・オペラハウスシネマシーズンは2017-18シーズンも継続します。バレエも全6作品公開してくれるので楽しみですね。



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