セルゲイ・ポルーニン写真集『The Beginning of a Journey: Project Polunin』(ハービー・山口撮影)と写真展 

現在公開中のドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』、大ヒットしているようで、上映館も拡大しているとのことです。
http://www.uplink.co.jp/dancer/

バレエファンのみならず、多くの人を惹きつける普遍的な内容のこの映画、貧しい家庭に生まれた傑出した才能を持った青年が、その才能ゆえに背負う十字架、家族との葛藤、バレエに明け暮れたために普通の少年時代を送れなかったこと、そして孤独と重荷を描いています。セルゲイ・ポルーニンが踊る映像もふんだんに盛り込まれ、また幼い頃からの記録映像もたくさん登場して、心を打つドキュメンタリーとなっています。私もパンフレットに少し寄稿したということもあり、この作品のヒットがとても嬉しいです。配給のアップリンク、そしてパルコの宣伝も、上手くターゲットに響くもので、素晴らしい成果だと思いました。


さて、セルゲイ・ポルーニンは、自らのプロジェクト、「プロジェクト・ポルーニン」を立ち上げました。バレエという芸術がまだ敷居の高いイメージがあるがゆえ一般への広がりがないのでそれを打破すること、また常に怪我のリスクがありキャリアの短いダンサーたちを、様々な形で支援する組織とのことです。

そして、「プロジェクト・ポルーニン」という自らがプロデュースした公演も、今年の3月にロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で行いました。彼が大きくブレイクするきっかけとなったミュージック・ビデオ「Take Me to Church」を監督したデヴィッド・ラシャペルとのコラボレーションで、ナタリア・オシポワが共演していました。チケットはあっという間に売り切れましたが公演の内容については、ほとんどすべてのメディアで酷評されました。

その「プロジェクト・ポルーニン」の舞台裏とリハーサルを、ロックミュージシャンなどの撮影で知られる写真家のハービー・山口さんが撮影した写真集『The Beginning of a Journey: Project Polunin』が発売されました。
http://www.uplink.co.jp/dancer/



発売された時に、渋谷のギャラリーX BY PARCOでこの写真展が行われていたので、観に行ってきました。ハービー・山口さんもいらっしゃって話をすることもできました。バービー山口さんがダンサーを撮影するのは初めてだったとのことですが、彼独特の温かい視線で、真摯にリハーサルや打ち合わせに取り組むポルーニンをドラマティックに、心の奥底まで映し出すように捉え、また舞台リハーサルの様子は、美しい舞台照明、衣装そして肉体を、普通のバレエの舞台写真とは全く違った、グラマラスで陰影に富んだルックで写し出しています。

特にポルーニンやオシポワのファンではなくても、この写真集の写真には心をつかまれる方が多いのではないかと思います。バレエという一瞬で消えてしまう芸術の、その儚い瞬間の美がみごとに昇華されているように感じられました。

会場で流れていた、「プロジェクト・ポルーニン」リハーサル映像の予告編



セルゲイ・ポルーニン写真集
『The Beginning of a Journey: Project Polunin』 写真/ハービー・山口

2017年3月、ロンドンで上演されたセルゲイ・ポルーニンのオリジナルプロジェクトを、ハービー・山口が撮り下ろし。新たな旅の始まりです。

定価:3,500円(税別) パルコ出版/B5変型/上製/176頁
一般発売:7月22日(土)Amazon、全国書店ほか

ギャラリーXでの写真展は終了しましたが、代官山のT-SITEでも写真展が 8月9日(土)まで開催されています。
http://real.tsite.jp/daikanyama/event/2017/07/post-377.html

セルゲイ・ポルーニン 写真展
『ビギニング・オブ・ジャーニー』代官山

渋谷GALLERY X BY PARCOで開催された展示が代官山 北村写真機店に巡回します。

展覧会限定セット 8,000円(税抜)・写真集+2Lサイズ オリジナルプリント

会場:代官山 北村写真機店(代官山T-SITE GARDEN 4号棟)
会期:2017年7月28日(金)~8月09日(水)10:00~22:00
入場料:無料

セルゲイ・ポルーニン写真集 The Beginning of a Journey: Project Polunin
Sergei Polunin

パルコ 2017-07-22
売り上げランキング : 21893

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なお、「プロジェクト・ポルーニン」は今年の12月にロンドン・コロシアムでの公演が予定されています。8月2日にチケットは一般発売されますが、前回酷評されたとはいえ、今回もすぐに売り切れるものと思われます。
https://londoncoliseum.org/whats-on/project-polunin/

この公演の発表の際に、セルゲイ・ポルーニンはGuardian紙のインタビューを受けて、バレエはこのままでは死んでしまうこと、そしてダンサーを取り巻く厳しい状況について語っています。

https://www.theguardian.com/stage/2017/jul/29/sergei-polunin-ballet-must-get-rid-of-elitist-image

セルゲイ・ポルーニンというダンサーについては、賛否両論があり、特に英米のバレエ関連のジャーナリストは彼については厳しい見方をしている人が多いようです。批評や多くの人の感想を読む限り、確かに「プロジェクト・ポルーニン」の前回の公演のクオリティは高くなかったようです。また、最近のロイヤル・バレエでの『マルグリットとアルマン』ゲスト出演のキャンセル、そしてロイヤル・バレエにおける待遇などを今も批判していることや、一つのバレエ団に所属せずゲスト出演中心に活動していること、そしてハリウッド映画に出演するといった活動についても様々な意見があります。

バレエ界においては本当に様々な問題があり、それをはっきりと口に出して、状況を変えようと積極的に活動している彼の勇気は素晴らしいものだと思います。どうやったらもっと芸術家が尊重されるようになるのかは、日本にいる私たちも真剣に考えなければなりません。

この写真集に映し出されているポルーニンの姿は、間違いなく真摯な芸術家であると私は感じました。



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