【動画付きレポート】上野水香が登壇!映画「ジョン・クランコ バレエの革命児」公開初日イベント

動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)

ドイツ地方都市の小さなカンパニーだったシュツットガルト・バレエを一躍世界トップレベルに押し上げ、“シュツットガルトの奇跡”と呼ばれた天才振付家、ジョン・クランコ。彼が振付けたドラマティック・バレエの傑作『オネーギン』は、英国ロイヤル・バレエ、パリ・オペラ座バレエなど、世界中のカンパニーでいまも上演されています。この作品の誕生秘話と、45歳という若さで非業の死を遂げたクランコの半生と素顔が描かれる映画『ジョン・クランコ バレエの革命児』が、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下などを皮切りに、全国の映画館にて順次公開中です。

監督・脚本はヨアヒム・A・ラング。彼は長年にわたりシュツットガルト・バレエを取材し、バレエ団との深い信頼関係のもとでこの作品を撮影しました。ジョン・クランコ役は『マレフィセント』などに出演しているサム・ライリー。そして特筆すべきは、実在したダンサー役を、シュツットガルト・バレエの現役ダンサーたちが務めている点。ハインツ・クラウス役をフリーデマン・フォーゲル、マリシア・ハイデ役をエリサ・バデネス、リチャード・クラガン役をマルティ・バイシャ、ビルギット・カイル役をロシオ・アレマン、エゴン・マドセン役をヘンリック・エリクソンが演じています。

ジョン・クランコ役:サム・ライリー © 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.

『ジョン・クランコ バレエの革命児』ストーリー
ロンドンの英国ロイヤル・バレエやサドラーズ・ウェルズ・バレエで振付を手掛け、マーガレット王女との親交も深めるなど新進気鋭の才能として活躍していたジョン・クランコだったが、警察のおとり捜査によって同性愛行為の罪で起訴された。1960年、ロンドンを追われたクランコは、つてを頼ってシュツットガルト・バレエで客演することになる。偏見なく自分を受け入れてくれるバレエ団に居場所をみつけたクランコは、翌年芸術監督に就任し、既存の常識にとらわれず、自由な発想で美と情熱を完璧に表現する作品とカンパニーを作り上げていく。斬新な振付の『ロミオとジュリエット』は評判を呼び、プーシキンの原作を基にしたドラマティック・バレエの最高傑作のひとつ『オネーギン』は観客を魅了し夢中にさせた。1969年、バレエ団はニューヨークのメトロポリタン歌劇場に招かれ、公演は大絶賛され、シュツットガルト・バレエは一夜にして世界の頂点へと駆け上がる。ソ連まで含む盛大な世界ツアーが行われ、まさに絶頂を極めるが、1973年6月26日、アメリカからの帰国する飛行機の中で悲劇が起きる。

バレエ団の本拠地である州立歌劇場での撮影。音楽は州立管弦楽団による演奏です © 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.

公開初日となった3月13日の上映後、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にて、公開記念トークイベントが行われました。ゲストは東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香。作品についての感想や、映画に出演していたフリーデマン・フォーゲルについてなど語ったトークのもようをお届けします。動画と合わせてお楽しみください!

公開記念トークイベント ゲスト:上野水香

上映後の熱気が冷めやらぬ中で行われたトークイベント。上野水香さんの登場に大きな拍手が湧きました。会場には映画ファンのほか、バレエファンやバレエを習っていると思しき子どもの姿も。「シュツットガルト・バレエの公演を観たことがある方は?」の質問にはおよそ半数が手を挙げました ©Ballet Channel

映画を観た感想や、印象に残った場面は?
上野 ジョン・クランコさんという実在の人物を描いているので、ドキュメンタリー作品のようでもあり、強いメッセージ性を感じる作品でした。シュツットガルト州立劇場は、東京バレエ団のツアーなどで何度も伺っていますが、スクリーンに映し出される街の景色に改めて「こんなに美しい場所だったんだ!」と思いました。印象に残ったのは、州立劇場で働くことを決めたクランコさんが劇場を眺めているところに、フリーデマン・フォーゲルさんがゆっくりとアラベスクをして踊り始める場面です。シュツットガルト・バレエのダンサーたちが次々と現れて、クランコさんの思いを踊りで表現していくのが素晴らしかったですね。

上野さんが語っているのはこの場面。イベントレポート動画の最後に流れる予告編でも、少しだけお楽しみいただけます! © 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.

シュツットガルト・バレエで活躍中の現役ダンサーたちが、演技に挑戦しているのも見どころですね。
上野 みなさんお上手ですよね! とくにマルシア・ハイデ役を演じていたエリサ・バデネスさん。ダンサーである彼女があんなにたくさんのセリフをこなしていて、すごいと思います。先日彼女に会った時にそれを伝えたら、「私はドイツ語があまり得意じゃないから、とにかく暗記して喋っただけなの。完成した映画で字幕を見て、初めて全部の内容がわかったのよ」という返事が来て、本当に?とびっくりしました。
映画の中では、クランコが作品をつくっていく過程が繊細に描かれています。
上野 この映画を観て、クランコさんがこんなにも感情の起伏の激しい方だったと初めて知りました。そして、だからこそ感動的な作品を生み出せたのかもしれないと感じました。映画の中のクランコさんは、メンタルが落ちている時こそ、素晴らしい作品を生み出します。創作を突き詰めるために、あえて自分の心を壊しているように見えることも。その反面、バレエ団やダンサーたちにはたくさんの大きな愛情を持っているんですよね。その愛がダンサーたちに伝わって、より深い作品が生まれていったのではないでしょうか?

© 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.

「私も長いバレエ人生の中で、時には追い詰められ、ギリギリのところに立っているような不安な気持ちになることがあります。でもそういう時こそ、良い結果が出せたりするんですよ」(上野) ©Ballet Channel

クランコの振付作品の中でとくに大きく取り上げられているのが、名作『オネーギン』です。
上野 シュツットガルト・バレエは『オネーギン』という作品をもって世界に躍り出たと言えると思います。素晴らしい作品です。世界中のバレエ団がレパートリーに持ち、世界中のダンサーが踊りたいと願っています。私もそのうちのひとりです。
クランコと同じくらい著名な振付家にケネス・マクミランがいます。彼の特徴は何と言っても『マノン』や『ロミオとジュリエット』などに見られるアクロバティックなリフトで、ダンサーの技術の見せ場であり、感情の発露の場でもあります。いっぽう、クランコの振付にはマクミランのようにアクロバティックなシーンは見られませんね。上野さんはクランコならではの特徴をどこだと捉えていますか?
上野 おふたりとも素晴らしい振付家なのですが、対照的ですよね。私は、クランコさんが日常の動作を取り入れているところに魅力を感じます。『オネーギン』のラストシーン、タチヤーナはオネーギンからの手紙を破くことで彼への拒絶と悲しみを表現します。「破く」という身近な動きだからこそ、演技にリアリティが生まれ、タチヤーナの繊細な感情がまっすぐ伝わってくる。観客をドラマの中へ引き込んでくれる、素敵な振付です。

『オネーギン』のカーテンコールに立つ、タチヤーナ役のマルシア・ハイデと、オネーギン役のハインツ・クラウスの場面。演じているのはエリサ・バデネスとフリーデマン・フォーゲル © 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.

映画の中でオネーギンを演じるハインツ・クラウス役、そして冒頭のダンスシーンでも活躍しているのは、シュツットガルト・バレエを代表するプリンシパルダンサー、フリーデマン・フォーゲルです。彼は上野さんと同じモナコのプリンセス・グレース・ダンス・アカデミーを卒業し、同じ先生に習っていたそうですね。
上野 はい。彼は私が卒業した後に入ってきたので一緒に学んではいないのですが、マリカ・ベゾブラゾヴァ校長から、卒業後に何度も彼と組んで踊ってほしいと声を掛けていただいていました。後でフリーデマンとその話をしたら、彼も先生から私の話を聞いていたそうです。
上野さんから見たフリーデマンさんのダンサーとしての魅力は?
上野 彼ほど優れたダンサーはいません。非の打ちどころがないボディと技術を持っているだけでなく、とてもチャーミングで、一瞬でみんなを惹きつける力があって。明るい性格は、彼のダンスの個性にもなっていると思います。
パフォーマンスも46歳とは思えませんよね。衰えを感じないどころかますます研ぎ澄まされているのではないでしょうか? 彼はシュツットガルト・バレエの新作に、メインキャストで入っているのですが、その時は20歳ぐらいのダンサーたちと一緒にオーディションを受け、その中で選ばれたんですって。彼の実力が分かりますよね。私は彼よりも年上ですが、「お互い頑張っているよね」と話しているんです。
最後に、会場のお客様にメッセージをお願いします。
上野 映画を観たみなさんにも、芸術の世界がどんなに厳しく、激しいものなのか伝わったと思います。そのいっぽうで、アーティストたちの愛も感じていただけたのではないでしょうか? 感動的な芸術が生まれる時、その中核には愛があります。その愛によって、演者とお客様は通じ合うことができるんです。
私もこの映画に強い愛を感じた一人です。アーティストとして、ひとりの人間として、ハートの部分を大切にできる人でありたい。みなさんにも愛を大切に過ごしていたけたらと願っています。

上野水香 Mizuka Ueno
神奈川県出身。5歳よりバレエを始める。1988年A.M.スチューデンツで牧阿佐美、三谷恭三に師事。1993年ローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞、モナコのプリンセス・グレース・アカデミーに2年間留学、マリカ・ベゾブラゾヴァに師事。1995年同アカデミーを首席で卒業後帰国、牧阿佐美バレヱ団に入団し。古典全幕作品やローラン・プティ作品を踊る。2004年、東京バレエ団にプリンシパルとして入団。『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』『ラ・バヤデール』『海賊』などの古典作品のほか、モーリス・ベジャール『ボレロ』『ザ・カブキ』、ローラン・プティ『ノートルダム・ド・パリ』『チーク・トゥー・チーク』など多くのレパートリーに出演している。2023年よりゲスト・プリンシパル。 ©Ballet Channel

上映情報

『ジョン・クランコ バレエの革命児』 

2026年3月13日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
※現在の上映劇場情報はこちら

【スタッフ】
監督・脚本:ヨアヒム・A・ラング

【CAST】
サム・ライリー、ハンス・ツィッシュラー、ルーカス・グレゴロヴィ

【シュツットガルト・バレエCAST】
フリーデマン・フォーゲル、エリサ・バデネス、ジェイソン・レイリー、ロシオ・アレマン、ヘンリック・エリクソン

原題:John Cranko
ドイツ/2024年/138分/シネマスコープ/ドルビーSRD/カラー/ドイツ語
配給:アット エンタテインメント
© 2023 Zeitsprung Pictures GmbH.
映倫:G

オフィシャルサイト
https://johncrankojp.com/

 

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