トランプ大統領、全米芸術基金や全米人文科学基金の廃止を、連邦政府予算案で提案

1月に、トランプ合衆国大統領が、全米芸術基金(NEA)と全米人文科学基金を廃止する意向であるという記事を紹介したところ、大きな反響がありました。

ただし、これはヘリテージ財団の青写真に基づく内容のものを政治専門紙「ザ・ヒル」が報じたもので、見通しに関する記事でした。


このたび、トランプ大統領は、3月16日に発表された第1回目となる連邦政府予算案の中で、全米芸術基金や全米人文科学基金の廃止を提案しています。

ドナルド・トランプ大統領、全米芸術基金や全米人文科学基金の廃止を提案
http://nme-jp.com/news/35278/

Trump wants to axe NEA and other culture agencies
http://theartnewspaper.com/news/trump-wants-to-axe-nea-and-other-culture-agencies/

Trump Proposes Eliminating the Arts and Humanities Endowments
https://www.nytimes.com/2017/03/15/arts/nea-neh-endowments-trump.html?_r=1

先に報じられた全米芸術基金や全米人文科学基金(NEH)だけでなく、放送局PBSや非営利ラジオ局のネットワークの主財源となる国家放送法人、博物館図書館サービス振興機構(米国の博物館・図書館サービス法(Museum and Library Services Act)によって制定された連邦行政府内の独立行政機関)、ならびに学者のためのウッドロー・ウィルソン・インターナショナル・センターの解体も提案しており、19もの団体が廃止されてしまう危機にあります。

全米芸術基金と全米人文科学基金は、1965年に当時のリンドン・ジョンソン大統領がどの「先進的な国家」も芸術や人文科学、文化的な活動を十分評価する必要があると宣言して設立されており、基金の廃止を呼びかけた大統領はこれまでにいませんでした。

両基金ほか19団体を合わせた年間の予算は、国家予算1.1兆ドル(約124.59兆円)のうちの約30億ドル(約3397億円)となっています(NEA,NEHがそれぞれ1億4千800万ドル、連邦政府予算のわずか0.003%)。一方で、トランプは大幅に軍事予算を増加させる予定で、523億ドルも増加させ、メキシコと米国の間の壁を構築するなどで、入国管理局の予算も28億ドルも増加させるとのことです。また、トランプタワーの年間の警備費は、1億8300万ドルで、NEAやNEHの予算よりも大きな金額です。

もちろん、芸術に関連する団体、美術館や博物館などは歩調を合わせて、この削減や廃止への反対を表明しています。たとえばNEAは、脳に外傷を負った軍人が入院している全米12の病院に、リハビリのためにアートセラピストを配置したりもしています。また、NEAは米国内のGDPの4.2%にあたる7300億ドルという市場規模、480万人が雇用されている芸術文化産業において、基金のマッチングで年間6億ドルも生み出していて、大きな経済効果を生んでいます。

National Center for Arts Research (NCAR)によれば、美術館/博物館は99億5千万ドルの売り上げを米国経済に貢献しており、またコミュ二ティに根差したアート団体も36億ドルの寄与があるとのことです。

メトロポリタン美術館も、抗議の声明を発表しています。
http://www.metmuseum.org/press/news/2017/march-16-statement

全米各地の劇場も抗議声明を発表し、NEAの重要性を強調しています。
http://www.broadwayworld.com/philadelphia/article/In-Their-Own-Words-Arts-Organizations-on-the-Importance-of-the-National-Endowment-for-the-Arts-20170218

もちろん、米国のバレエ団もNEAから基金を提供されていました。たとえば1995年には、ABT(アメリカン・バレエ・シアター)はNEAから125万ドルの基金の提供を受けています。

米国のDance Magazineでは、1月の報道があった時には、まだ楽観的な内容の記事を掲載していました。
The NEA is Not Going Anywhere…Yet
http://dancemagazine.com/views/nea-not-going-anywhere-yet/

2017年のNEAのダンス関係の基金提供については、アスペン・サンタフェ・バレエの米国内ツアーとアウトリーチ活動の支援、ディブロ・ダンス・センターの支援、ジョージ・バランシン財団のビデオアーカイブ作成への支援などを行う予定となっています。

ダンス/バレエ団体への公的な金銭的な支援が行われなくなるのも大きな問題ですが、もっと大きな問題としては、米国内の公立学校や、小さなコミュニティにおけるアート関連のプログラムが削減される可能性が高くなっています。多くのダンサーは、これらのNEAによって支援されたプログラムで教えることによって生計を立てています。またこれらの資金援助が行われないことにより、地方や金銭的に恵まれない地域における子供、さらには大人も芸術に触れる機会が減ってしまうことになります。

ただし、この段階ではあくまでも廃止の「提案」なのであって、廃止されることが決まったわけではありません。反対、抗議の声を上げていくことが必要だと、Dance Magazineの記事でも書いており、請願の送り先や、ソーシャルメディアでNEAの重要性を訴えることを書いています。
http://dancemagazine.com/views/how-to-save-the-nea/



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