特集:ミュージカル「ビリー・エリオット」④バレエ指導 坂本登喜彦インタビュー~自己主張できる強さが新・ビリーたちの魅力です

2024年7月、ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が幕を開けます。スティーヴン・ダルドリーの映画「BILLY ELLIOT」(邦題「リトル・ダンサー」)を同監督によりミュージカル化。イギリス北部の炭鉱の町でバレエと出会い、数々の障害を乗り越えロイヤル・バレエ・スクールを目指す少年エリオットの物語です。

今回出演が決まった4人のビリーたちのバレエ指導を担当しているのは、ダンサーとして活躍後、現在はバレエ講師や振付家として活動を続ける坂本登喜彦(さかもと・ときひこ)さん。ミュージカル『ビリー・エリオット』日本版のスタッフとして初演から参加しています。2017年・20年と歴代のビリーたち全員のクラスレッスンを指導、彼らの成長を見守りステージへと送り出してきた坂本さんに、今回のビリーたちの印象や作品の魅力について聞きました。

坂本登喜彦  ©TETSUYA HANEDA

坂本登喜彦 Tokihiko SAKAMOTO
札幌舞踊会で千田モト・雅子に師事しバレエを始める。1984年日本バレエ協会夏季定期公演で新人賞を受賞、86年に文化庁芸術家在外研修員として英国に留学。マリオン・レインに師事。91年村松賞、94年橘秋子賞優秀賞、95年服部智恵子賞、96年芸術選奨文部大臣賞を受賞。劇団四季ミュージカル『CATS』に出演するなど活躍の幅を広げ、現在は振付家としても活躍。劇団四季、ICHIBANGAI Dance Studio、日本音楽高等学校などで講師を務めている。坂本・髙部バレエスタジオフロート代表。

まず、坂本さんが担当する「バレエ指導」について教えてください。『ビリー・エリオット』のダンスナンバーを指導するのとはまた別の仕事なのでしょうか。
坂本 ミュージカル『ビリー・エリオット』では、海外の振付家から振り写しを受けた日本人スタッフと、来日した海外スタッフの2チーム体制で稽古していく方法を取っています。僕の仕事はその前段階、つまりビリー役に選ばれた4人がスムーズに振り写しに入れるように、バレエのクラスレッスンを行うこと。日本版の初演から関わり、今回のビリーたちで3回目になります。海外スタッフからの要求は「とにかく基礎の徹底を!」。振付の要素を少し取り入れることもありますが、音楽性や背中の使い方、手足を思いどおりに動かせるコーディネーション能力の向上などを中心に、基礎の部分を指導しています。
今回のビリー役にはバレエ経験者が揃いました。彼らの第一印象はどうでしたか?
坂本 最初は「幼少期からバレエをやる環境にいたのでかなりの技術を持っている。でもまだまだ小さな子どもだな」と思っていました。それが一年も経たないうちにみるみる大きくなって驚かされます。年齢的にも成長期ですから、技術面の進歩はもちろん、ものの考え方も……こちらはまだちょっと子どもだなと思うところもありますけれど(笑)。でもみんな着実に成長しているんじゃないかな。
レッスン中の4人はどんな様子ですか?
坂本 彼らのいいところは、自分がやりたいことをしっかり主張できる点です。レッスンの前に「先生、僕は今日、この動きを練習したいです」、終了前にも「この動きも挑戦しておきたい!」と、直接、僕に伝えに来ます。これはバレエのレッスンではあまり見かけないことなんですよ。先生から振りを渡されたら生徒はそれを完璧にこなす、これが一般的なバレエレッスンの流れです。でも彼らはそれだけで終わらない。ビリーは周りから反対されても「僕はバレエをやりたい!」と自分の意志を貫きますけれど、4人が演じるビリーからも、それぞれの自己主張がにじみ出てくるかもしれません。演出家の方たちは、オーディションで彼らのそういうところもちゃんと見抜いているんでしょうね。
みんな前向きで、パワーがありますね。
坂本 ええ! なにがすごいって、「絶対に○○ができるようになりたい」という思い、少しでも高く跳びたい、たくさん回りたいと挑戦する気持ちですよ。受け身のところがなくて、みずから向かっていく力を持った子たちだと思います。

©︎Ballet Channel

初演、再演のビリーたちのバレエ指導を務めた坂本さんが見て、今回のビリーたちの特徴を挙げるとしたら?
坂本 バレエ教師としての視点で言うならば、4人ともバレエに関して一定以上のレベルを持っているところですね。今までは、4人のビリーの中にはバレエ以外の分野で高い技術を持つ子もいましたから、それぞれがことなる得意分野を活かして協力し合う風景も見られました。今回は全員の得意分野がバレエです。なので協力というよりは、互いを良きライバルとして切磋琢磨し合っているように見えます。
レッスンの合間に集まって、ジャンプやピルエット対決をしている男の子たちのイメージが浮かびます。
坂本 そう、まさにその感じです。男の子同士ですから意識し合い、競い合える。その点も彼らにとって良い効果を生んでいるようです。その場を治めるのはちょっと大変な時もありますけれど(笑)。そして今回のビリーたちはバレエ経験こそ豊富ですが、ジャズやタップ、歌、アクロバットは、ほぼ全員が未経験。そちらのレッスンでは、おそらく全員で猛勉強している最中だと思います。
公演のリハーサルが始まるまで、そうやって彼らなりに士気を高めていくのですね。
坂本 本格的な舞台稽古が始まれば、彼らは大人の俳優たちから色々なことを学ぶでしょう。初日までの数ヵ月間は、彼らの人生の中でもいちばん多くの経験をすると思います。それを体感しながら、さらに変わっていくんでしょうね、今までのビリーたちがそうだったように。
ちなみに、先生がビリーたちと同じ年齢のころはどんなバレエ少年でしたか?
坂本 最初はお芝居がしたいと思っていたので、バレエを始めたのは高校1年からです。彼らと同じ年の頃は野球ばっかりやっていました(笑)。僕の子ども時代には、両親がバレエ関係者などでない限り小さい時からバレエを習う男の子はとても少なくて、僕のように、少し大きくなってから自分で始める人が殆どでした。でも始まりが遅かったぶんバレエにのめり込み、何もかも忘れて熱中しましたから、小さい時からやっている子たちに負けないぐらいの時間をバレエに費やしていると思いますよ。

©Ballet Channel

ミュージカルとバレエ、どちらの舞台経験もある坂本さんの視点から、この作品の魅力はどこにあると思いますか?
坂本 ミュージカルの振付にはバレエをベースにしたものが多くあって、多くの振付家や俳優たちは「踊りの基礎はバレエ」だと言っています。その中でバレエを描いたミュージカル『ビリー・エリオット』ならではのポイントは、ただバレエらしい振付を踊るだけではなく、“バレエという舞踊を披露する場面“としてきちんと成立するように振付けられ、演出されているシーンがあることでしょう。僕はバレエシーンを魅力的に見せずして『ビリー・エリオット』は成り立たないと思います。そのためにもバレエの素養は不可欠なんですよ。
演じる側にとっては難易度の高い作品だと。
坂本 ええ、でもそこが『ビリー・エリオット』の魅力でもあると思いますよ。演出家スティーヴン・ダルドリー、振付のピーター・ダーリングは、バレエの美しさをよく知っています。バレエシーンを「ここぞ!」という場面に持ってくるので、バレエ鑑賞が好きな方も楽しめると思います。
坂本先生が思う『ビリー・エリオット』のべスト・バレエシーンは?
坂本 それはもう、ビリーが自分の成長した姿(オールダー・ビリー)と一緒に踊るシーンでしょう。まさに「バレエ」と呼べる、いちばんの見せどころです。ここの振付はバレエ経験者でなくては踊れません。未熟な者が踊ったら、きっと客席にいるバレエ関係者にはすぐ見抜かれてしまいます。また、この場面には『白鳥の湖』の「情景」の音楽が使われていますが、この名曲を用いてお客様を感動させるためには、表現者たちがバレエの本質を知っていることが大事なんです。経験値と高い技術力を持つキャストたちですから、きっと素晴らしいものをお見せできるはずです。

2020年公演より ©ホリプロステージ

坂本 今までの舞台に立ってきたビリーたちみんなそうなのですが、彼らは本番を迎えてからも成長し続けるんです。舞台の上でビリーが連続回転を終えた瞬間、割れんばかりの拍手が沸くことがあります。あんなにたくさんの拍手を受けることって人生でそうあることじゃない。その経験がさらに彼らを成長させるのでしょう。
今回のビリーたちも、それがこの先の自分にも待っていることを感じていますから、これから本番に向かってもっと大きくなっていくはずです。僕は、舞台で彼らの変貌ぶりを観るのがいつも楽しみなんです。レッスンを始めたばかりから見守っているだけに、本番での成長ぶりには毎回感動してしまう。客席で涙しながら拍手を送るんですよ。

公演情報

Daiwa House presents
ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』

東京公演
【日程】
オープニング公演 2024年7月27日(土)~8月1日(木)
本公演 2024年8月2日(金)~10月26日(土)
【会場】東京建物Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)

大阪公演
【日程】2024 年11月9日(土)~24日(日)
【会場】 SkyシアターMBS

【作品概要】
脚本・歌詞 リー・ホール
演出 スティーヴン・ダルドリー
音楽 エルトン・ジョン

【キャスト】
ビリー・エリオット(クワトロキャスト)浅田良舞、石黒瑛土、井上宇一郎、春山嘉夢一
お父さん(ダブルキャスト)益岡徹、鶴見辰吾
ウィルキンソン先生(ダブルキャスト)安蘭けい、濱田めぐみ
おばあちゃん(ダブルキャスト)根岸季衣、阿知波悟美
トニー(兄)(ダブルキャスト)西川大貴、吉田広大
ジョージ  芋洗坂係長
オールダー・ビリー(トリプルキャスト)永野亮比己、厚地康雄、山科諒馬
ほか

【公演に関するお問合せ】
ホリプロチケットセンター 03-3490-4949 (平日11:00~18:00/土日祝休)
*チケット一般販売 2024 年3 月13 日(水)11:00~

◆公式サイトはこちら

◉ミュージカル『ビリー・エリオット~リトル・ダンサー~』2024年版製作発表動画レポート

※ビリー役4名の初パフォーマンス披露
※オールダー・ビリー役:永野亮比己さん、山科諒馬さんコメントも収録!
動画撮影・編集:古川真理絵(バレエチャンネル編集部)
〈この動画は2024年11月24日までご覧いただけます〉

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