【12/15開幕!Noism×鼓童「鬼」】井関佐和子/平田裕貴・小松崎正吾(鼓童)インタビュー〜太鼓と踊りのせめぎ合い。「斬らねば斬られる」ような緊張感。生のエネルギーをぜひ劇場で

Noism×鼓童『鬼』(2022) 撮影:篠山紀信

日本初の公共劇場専属舞踊団として2004年に設立されたNoism Company Niigataが、20年目のシーズンを迎えた。大きな節目となるシーズンの幕開けを飾るのは、佐渡を拠点に活動する太鼓芸能集団 鼓童との共演作、Noism×鼓童『鬼』。2023年12月15日(金)〜17日(日)の新潟公演を皮切りに、年明け1月には神奈川、岡山、熊本の3都市でも上演される。

同作は2022年夏に初演され、新潟では早々にチケットが完売するなど大きな話題を呼んだ人気演目だ。作曲家・原田敬子が新潟と佐渡でのリサーチを経て書き下ろした楽曲《「鬼」舞踊と打楽器アンサンブルのための(2020-22)》を鼓童が生演奏し、金森穣の演出振付でNoism0とNoism1の舞踊家が躍動する。まさに「鬼」が憑依したかのような奏者と舞踊家の、緊張感みなぎるパフォーマンス。両者のエネルギーが互いに共鳴し合い、みるみる増幅して、客席へと押し寄せてくる。

開幕を前に、このプログラムの再演を決めたNoism国際活動部門芸術監督の井関佐和子さんと、鼓童メンバーの平田裕貴さん、小松崎正吾さんの3名に、メールでインタビューした。

Interview 1
井関佐和子 Sawako ISEKI
Noism0/Noism国際活動部門芸術監督

1978年高知県生まれ。3歳よりクラシックバレエを学び、16歳で渡欧。スイス・チューリッヒ国立バレエ学校を経て、ルードラ・ベジャール・ローザンヌにてモーリス・ベジャールらに師事。99年ネザーランド・ダンス・シアターⅡ(オランダ)に入団、01年クルベルグ・バレエ(スウェーデン)に移籍。04年4月Noism結成メンバーとなり、金森穣作品においては常に主要なパートを務める。22年9月より国際活動部門芸術監督。

今回、Noism×鼓童『鬼』の「再演」を決めた理由として、井関監督は
・初演時にチケットが完売して観られなかったお客様がたくさんいたこと
・今作に限らず、作品とは「再演されること」が重要
・昨今は舞踊家たちの入れ替わりが早くなってきており、早めに「再演」の経験をさせてあげたい
といった点を挙げています。
このうちの3点目について、いまリハーサルをしている中で、Noismメンバーのみなさんが、新作に取り組む時とは異なる学びや発見をしている等の手応えはありますか?
井関 初演の時の彼らは、音楽や振付を覚えて、演出振付家の意図や指示に食らいついていくことに必死。でも今回は音楽も振付もすでに身体に入っていますから、それをどういうふうに踊るかという、質や表現にまつわる部分に意識をもっていけていることが、いいことだなと思っています。言われたことをやっている状態から、言われたことを踏まえた上で、自分がどうしたいかを考えて模索すること。それはプロとして自立するためにとても大事なプロセスです。そして何より、みんな、前回の自分を越えようとしています。それこそが大事なことです。

Noism×鼓童『鬼』(2022) 撮影:村井勇

『鬼』の魅力のひとつは何と言っても、鼓童による太鼓の生演奏と共に踊られること。客席にいてもあの音圧は凄まじく、初演の時は、観ているうちに自分の鼓動が太鼓の音にぐいぐい引っ張られていくような感覚を覚えました。実際に踊っているみなさんは、いったいどんな感覚なのでしょうか?
井関 通常の公演のようにPAの音響(CD)である場合と生演奏が違うことはもちろんですが、太鼓や銅鑼などの打楽器は空間の振動が違いますから、身体への影響は大きいですね。そして身体がその影響を受けているわけですから、踊りも変わります。逆に変わらないほうがおかしい。でも大事なのはただ影響を受けることではなくて、その受けた影響を返すことです。自分たちがそこで生きて踊っているエネルギーが、鼓童のみなさんに伝わり、彼らの演奏に影響を及ぼす。その互いのエネルギーのぶつかり合いが、客席に向かって飛んでいき、観客のみなさんに影響することを目指しています。
同時上演される『お菊の結婚』(*)は、オペラ『蝶々夫人』の基になったピエール・ロティの小説『お菊さん』をモチーフにしていて、音楽はストラヴィンスキーの「結婚」。バレエファンにとってはストーリー的にも音楽的にも親しみやすい気がします。
井関 バレエとの共通性ということでは、私たちは日々Noismバレエによってトレーニングしていますから、たとえ動きがバレエでなくても、基礎はバレエにあります。そしてこの作品はストラヴィンスキーの楽譜(楽曲)に忠実に実演されますから、オリジナルを知っている方は、その違いを楽しむことができると思います。そしてこの作品は身体性が“人形”であることが特殊なのですが、バレエで人形振りといえば『コッペリア』がありますよね。ですからバレエファンの方には、その人形振りにも注目してもらえたらと思います。

*熊本公演のみ『お菊の結婚』の上演はなく、鼓童による特別コンサートが予定されている

Noism『お菊の結婚』(2022) 撮影:篠山紀信

Noism『お菊の結婚』(2022) 撮影:篠山紀信

『鬼』『お菊の結婚』を含め、数々のNoism作品で衣裳を手がけてきた舞台衣裳家の堂本教子さんが、先日亡くなりました。堂本さんの衣裳をたくさん着てきた舞踊家として、思い出に残っていることなどがあれば聞かせてください。
井関 本当に悲しい知らせでした。教子さんとは2005年から一緒にお仕事をさせていただきました。いつも作品を理解してくださり、舞踊家を理解してくださり、まさに一緒に作品を作り上げていってくださった方です。彼女の存在は私にとってとても大きく、いつも大きな心で受け止めてくださり、太陽のような方でした。そして批評的な視座を持っていてくださったことも、大きな力となりました。いいものは心から褒めてくださり、気になることがあれば率直に伝えてくださいました。今でも衣裳を着ていると「さわちゃん! 頑張って!」と後ろで声をかけてくださる教子さんがいる気がします。こうしてお話ししていると胸がいっぱいになります。会いたいです。また一緒に作品をつくりたいです。いつの日か。

Noism×鼓童『鬼』(2022) 撮影:篠山紀信

井関監督が国際活動部門芸術監督に就任されて1年が経ちました。初年を振り返って、達成できたと思うこと、手応えを感じていることなど、率直な所感を聞かせてください。
井関 まだ何も達成できたとは思っていません。手応えもまだまだです。1年経ったことで、仕事の流れが明確になり、いろいろ準備をすることはできるようになりました。でも、それは単なる“慣れ”です。今まで穣さんが築いてきたものをただ単純に引き継ぐのではなく、私が未来を開拓しなくてはいけない。それが自分の仕事だと思っています。舞踊に専念できるこの環境が全国に広がっていくように、道筋を開拓しなくてはいけません。目の前の出来事と遠い未来の両方を見ながら進んでいく必要がありますし、そのためにも、東京だけではなく、全国で、そして世界で公演をして、唯一無二であるこの舞踊団の認知を広げて行くことを目下重視しています。
井関さんは、国際活動部門芸術監督という職責を担いながら、舞踊家としても今なお舞踊団の頂点で踊っています。「舞踊家・井関佐和子」と「国際活動部門芸術監督・井関佐和子」の間で、葛藤や苦しさを感じることはないのでしょうか?
井関 舞踊家として生きることは、私の人生そのものです。そして国際活動部門芸術監督として生きることは、使命です。舞踊家としては刹那の集中、芸術監督としては2〜3年先の事柄を決めていかなくてはいけません。その間には、相容れないこともあれば、瞬間的にどちらの「井関佐和子」の発言なのかしっかり判断しなくてはいけないこともあり、冷静さは常に求められます。ですが、メンバーも、スタッフも、地域活動部門芸術監督の山田勇気も、もちろん総監督の穣さんも理解してくれています。そしてシンプルに愚痴を聞いてくれたり、協力してくれています。決して私ひとりの力ではなく、みんなの支えがあるから、両立ができている。それがいちばん嬉しいことです。本当に素晴らしいチームに恵まれていると常々思っています。

Noism×鼓童『鬼』(2022)井関佐和子、山田勇気 撮影:村井勇

設立20周年を迎え、Noismは現在クラウドファンディングに挑戦していますね。あらためて、その意図や目標について聞かせてください。
井関 20周年という節目の年ではありますが、新潟市から特別な予算が準備されたわけではないので、クラウドファンディングは劇場(財団)スタッフから提案があり、挑戦することにしました。年間の支援会員の方もいらっしゃいますし、そもそも公演を観にきていただけるだけで幸せなのに、追加でお願いしていることは心苦しくもあります。ですが、すでに多くの方から賛同と寄付をいただいていることを、本当に嬉しく思います。目標金額が達成されたら、広報活動を強化して、もっと多くの人にNoismの活動を知っていただいて、さらなる高みを目指していきたいと思っています。Noismはもっと羽ばたける。そう信じて、これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします!

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Interview 2
平田裕貴 Yuki HIRATA
鼓童

1994年生まれ。鹿児島県枕崎市出身。幼い頃より太鼓に親しんで育つ。2015年研修所へ入所。2018年より正式メンバー。太鼓にとどまらず笛や鳴り物などを担当し、さまざまな演目での歌心ある表現が印象的。近年は「大太鼓」の裏打ちや、「モノクローム」の中心奏者など、舞台の中核的な役割にも挑戦している。

平田さんは2022年の初演時も演奏メンバーとして出演し、今回の『鬼』公演ではリーダーを務めているそうですね。まずは昨年の初演時、Noismのみなさんと共演した時の印象や感想は?
平田 「踊る」と「叩く」は、きっといつの時代もずっと一緒にあったんだろうーーそんなことを考えました。というのも、演出振付の金森さんは、この作品を作る上で、Noismの舞踊の伴奏を鼓童がするのではなく、舞踊と音楽が対等な力関係で同時発生し、それらが拮抗することで生まれるエネルギーを大切になさっていると、私は解釈しています。その関係性というのが意外とありそうでないというか、私はこれまで経験がなくて。『鬼』という作品の中で音を鳴らしていると、音を鳴らすことと、身体を動かすことが、共通のエネルギーや出来事から発生してくるような感覚を覚えました。そして「いつの時代もこうやって生きてきたんだろうな」と、数万年続いている人類の根源のようなものを感じました。「踊る」「叩く」はいろんな動物がする行為ですが、それに律動があるというのは、人間ならではですしね。あまり別ジャンルのコラボというふうにはとらえていなくて、最初からこの組み合わせ、このチームでの一つの作品という感覚です。
あとは、Noismの作品を初めて拝見した時も感じたのですが、イメージ通り、Noismのみなさんは舞台や舞踊にまっすぐで、ストイックな方々でした!
本公演で演奏される曲は、作曲家の原田敬子さんによるオリジナル曲ですね。演奏家として実感する、この楽曲の魅力・おもしろさ・難しさなどを教えてください。
平田 とにかく、脳みそも身体も捻られていくというか、絞られます(笑)。ただじゃ演奏させてくれないというか……(苦笑)。技術的に難しい部分があるのはもちろん、わざわざ演奏家の脳みそを意地悪に刺激してくる部分があったり、曲が進んでだんだん安心しそうになったところで、絶対にそうはさせなかったり。緊張感を聴き手だけでなく演奏家にも持たせるような仕掛けが散りばめられています。

この曲を演奏するとき、技術や感覚、集中力の崖っぷちに立たされるんですね。そこから生まれてくる底力のようなエネルギーが、この曲の面白さの一つだと思います。どうやら原田さんは、意図してそういう構造にしているようで……原田さんこそ、この作品の本当の「鬼」だと思っています(笑)。

グルーヴが来そうで来なくて、来たと思ったらまた消えてしまう。そういう構成も私は面白いと思っています。なかなか気持ちよくさせてくれない感じがまた絶妙で。最後まで油断できません。ただ、最後の最後に訪れる高揚感はすさまじく(これは楽曲も振付も)、この大団円をぜひ生で感じて欲しいです。

鼓童では演奏者が楽曲を作ることが多いのですが、原田さんという太鼓を演奏しない作曲の専門家が太鼓と出会って、音を探してくださって生まれた、さまざまな音色もこの曲の聴きどころです。毎日太鼓と接している私たちでは思いつかないような奏法で、私たちも知らなかった音がたくさん登場して、とても音色の幅が広い楽曲になっています。

今回は「再演」ですが、前回よりも進化・深化していると感じることはありますか?
平田 Noism×鼓童の呼吸感の一致は、前回より格段に進化しています。こうしたらこうきてくれる、そうするならじゃあこうしよう、みたいな、無言の会話があります。会話というか、直感的・瞬間的にわかる感じですね。前述したように、どちらかが合わせるというより、同時発生する舞踊と音楽みたいなエネルギーを大切にしているので、とくにその要素がかなり深くなっている手応えがあります。

ご一緒するのも2回目ということで、リハーサル中はもちろん、舞台以外でもコミュニケーションが増えていて、シンプルにやりやすいです。こういう共演ものって、いつもの私は「なんか違うなぁ」と思っても自分でどうにかしよう……となりがちなんですが、Noismのみなさんとは、それを会話して解決に向かうということがしやすいんです。やりにくかったらやりにくいとお互いに言い合える。妥協せずにブラッシュアップしていけるこの関係性も、再演ならではの深化につながっていると思います。

Noismとのコラボレーションは、鼓童のみなさんに何らかの影響や変化をもたらしていると感じますか?
平田 まず、『鬼』という作品を通して、肌感覚や、舞台上で発生する何かに瞬間的に音で反応するという力がかなり向上しました。舞踊の伴奏としての音楽ではなく、「同時発生する舞踊と音楽」という概念や感覚も、今後のクリエイションの新たな可能性につながると思っています。

立ち姿などの姿勢や居ずまいといった点も、あらためて見直す機会にもなっています。鼓童ではそういう部分も大切にしてはいるのですが、やはりNoismのみなさんは格段に美しくて。自分たちももっと、そこに在るだけで美しい在り方というのを見直しています。

Noism×鼓童『鬼』(2022) 撮影:村井勇

非常に初歩的な質問で失礼します……。バレエはオーケストラの演奏で踊られることが多く、オーケストラには指揮者がいます。しかし鼓童のみなさんは集団で演奏されるのに、指揮もなく、しかも『鬼』では舞台装置の上にいて、照明もやや暗く、互いの立ち位置も離れていますよね。いったいどうやって、あのようにぴたりと息を合わせているのでしょうか?
平田 稽古量がいちばんだと思っています。指定のテンポで正確に演奏する技術もですし、合奏を何度も何度も繰り返す中で、呼吸感や間合いを馴染ませている部分もあります。
……といいつつ、どうやって合わせてるんですかね?(笑)テンポが一貫していればよいのですが、今回の曲はそうでなく、突然の音を数人で合わせて鳴らすシーンもあるので……。それはもはや気合いというか……というと精神論に聞こえてしまいますが、前述した肌感覚のように、空気の動きを察知する力、そのアンテナを磨くことは今回かなり意識して稽古を進めました。そういう要素もあり、舞台上の緊張感がすごいです。武士の「斬らねば斬られる」みたいな(笑)。
しかし指揮者のいるオーケストラでさえ、時々劇場内の空気に押されるようにして演奏が速くなっていったり、逆に遅くなったりするのを感じることがあります。鼓童のみなさんにおいては、そういったことは起こりませんか?
平田 劇場内の空気や舞台上の熱などによってテンポが揺れることは、正直私たちにもあります。今回はとくに、演奏だけでなくそれと共に踊るので、極端なテンポの揺れについてはいつも以上に気をつける部分ではあります。
でもそんなふうに日に日に変化することもまた、生の公演の面白さだと思っています。人間らしくていいなって(もちろん演奏技術としては、再現性高くあるべきですが)。今回は再演ですが、もはや1年半前のものとは違う、「再演」という名の「新作」だと思います。毎回違う、その場限りの一期一会みたいなものも、人間がつくる芸術っていう感じがして、私は好きです。これからの時代、人間にしか生み出せないものって、こういう要素もあるのかもしれませんね。
ずばり、太鼓の見どころ・聴きどころとは?
平田 太鼓の音楽? 何それ面白いの? と思う方もいるかもしれません。それが、意外と面白いんですよ!
一言に太鼓と言っても、誰もが想像するようなお祭りのような雰囲気もあれば、ストイックで勇ましい太鼓もある。今回の『鬼』のような現代曲もありますし、ロックやポップスのようなものもあります。本当に幅が広いんですね。今は聴きたい音楽をすぐに聴ける時代。ぜひこの機会に、「鼓童」とか「太鼓」とか検索していただいて、それを日常の音楽として聴いたり、それと一緒に踊ったりしてもらえたら嬉しいです。もちろん醍醐味は生音の振動感。生の演奏も、劇場で体感していただけたら嬉しいです。

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Interview 3
小松崎正吾 Shogo KOMATSUZAKI
鼓童

1990年生まれ。福島県いわき市出身。2009年研修所入所、2013年よりメンバー。舞台では主に太鼓、鳴り物、唄、踊りを担当。身体の柔らかさを活かし、太鼓だけでなく踊りなどの全身を使った表現で独自の存在感を放つ。愛嬌のある性格と笑顔で周りを明るくする、鼓童のモチベーター的存在。

小松崎さんは、鼓童の中でも身体が柔軟で、「踊り」を担当することが多いそうですね! 過去に何らかのダンスを学んだ経験があるのでしょうか?
小松崎 18歳で佐渡に渡るまでは、ダンス経験はほとんどありませんでした。鼓童に入団するまでの2年間、研修期間として郷土芸能や民舞に触れ、準メンバーの時に当時芸術監督で在られた坂東玉三郎さんと出会い、踊りの世界に対して目を開いていただきました。

そして2012年から本格的に鼓童の舞台で踊り始める機会をいただき、縁あってNoismのみなさんの稽古場にお邪魔させていただいたことが、踊りを学ぶ大きなきっかけとなりました。そこから舞踊をはじめ、ストリートダンス、コンテンポラリー・ダンス、舞踏や様々な郷土芸能者のみなさんとの出会いの中で学んできましたが、しっかりとクラスに通ったりしたことはありません。ですからどんな踊りをどのくらい学んだか、と具体的に説明するのは難しいのですが、鼓童の舞台で踊り始めてからだと11年くらいになるかなと思います。

Noismの稽古場に……つまり小松崎さんは「Noismメソッド」を体験したということですね。Noismメソッドは、実際にやってみてどうでしたか?
小松崎 体験させていただいた当時の自分は舞踊に関しての知識もほとんどなく、ある種の強烈なカルチャーショックを受けつつ、ただ必死に喰らい付くことしか考えていませんでした(全身筋肉痛の日々だったことは鮮明に覚えています……)。でも時が経つにつれ、日本人の身体で踊ること、床や対象物との関係性、骨や筋繊維の在り方、重心や呼吸のポイントなど……たくさんの気付きがありましたし、メンタリティの部分も含めて、鼓童での自分の在り方の大切な基盤の一つとなっています。
『鬼』の初演を観た時、鼓童のみなさんが演奏する姿がとても身体的かつ音楽的で、体幹の強靭さも感じられ、ダンサーとの境界線が良い意味で溶け合っているような印象を持ちました。小松崎さんは、「太鼓を演奏すること」と「踊ること」に共通性を感じますか? あるいは逆に「まったく違う」と感じますか?
小松崎 どちらも「前言語表現」であることを大切にしているところ。まずはそれが共通点かなと思います。違うのは、身体ひとつで表現する(踊る)のか、それとも太鼓と共に表現する(奏でる)のか、という点かもしれませんが、身体言語としての根幹にあるものや目指しているものは、共感共鳴していると感じています。

「踊る」「叩く」という行為の中に、根幹から湧き上がるものをぶつけ合っていくからこそ、境界線が溶け合って一つの大きなエネルギー体として放出されていくのではないかと思います。今回の作品でも、太鼓に踊りが、踊りに音楽が憑依していくかのような、「踊る」と「叩く」のせめぎ合いに注目していただきたいです。

Noismの舞踊家たちと接していて感じる、彼らの特徴や凄さとは? また、「これは自分のパフォーマンスにも取り入れることができそうだ」と思うことはありますか?
小松崎 圧倒的身体知から繰り出されるエネルギーと、全所作にかける覚悟! そしてカンパニーとして、新潟から日本そして世界へ向けて「劇場文化と共に生きる」ということを発信し、闘い続ける覚悟を、ひしひしと感じさせていただいています。鼓童の「むら構想」と形は異なるのかもしれませんが、志は同じであると実感しています。鼓童としても、今いちど帯を締め直して歩んで行かねばと思わせていただけるカンパニーが同じ新潟にあることを、ありがたく思っています。

Noismは、自分が常々大切にしている身体言語としての鼓童での在り方について、考えるきっかけを与えてくれた存在です。ですから今回も、身体知やメンタリティ含め、毎時毎秒余すことなく自分の表現に活かすつもりで、みなさんとのかけがえのない時間を噛み締めています。

Noism×鼓童『鬼』(2022) 撮影:村井勇

本公演で演奏されるのは、作曲家・原田敬子さんによるオリジナル曲ですね。演奏家として実感する、この楽曲の魅力・おもしろさ・難しさとは?
小松崎 自分が出会ってきた楽曲の中でも間違いなく最高難度の楽曲です! 鼓童の演奏家としての可能性を真正面から試されているようで、再演の稽古に合流するまでハラハラヒヤヒヤしていました。でも楽曲への理解が深まるにつれて原田さんが表現したかったことが浮き出てくると、迷路から抜けたような心地よさと、抜けた先にある音楽としての色彩の豊かさに誘われて、心が躍ります。複雑な拍子感や速度感に、多様な音色が絡み合う。それが舞踊家と演奏家の境を溶け合わせる魔法をかけているんだなと感じます。

原田さんの楽曲世界は、太鼓以外の楽器も奏法も、様々なバリエーションを駆使して形成されています。複雑であるからこそ見えてくる生命体としての楽曲、舞踊、演奏。それぞれが拮抗しながら溶け合って行く中に潜む『鬼』を感じていただきたいです。

最後にズバリ聞かせてください。太鼓の見どころ・聴きどころとは?
小松崎 音楽としての太鼓と身体言語としての太鼓の両方を感じていただけると、より味わいが変わってくるかなと思います。舞踊家の身体の声やリズムを感じるように、実音の間に生きる太鼓たたきの身体から聞こえてくる声にも耳を傾けながら、太鼓の響きの中に在る魂の叫びを感じていただけると嬉しいです。そして自分もぜひ、バレエ・ダンスファンのみなさまが感じられた鼓童や太鼓の感想を伺ってみたいです!

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公演情報

Noism×鼓童『鬼』

【新潟公演】
2023年
12月15日(金)17:00
12月16日(土)15:00
12月17日(日)15:00

会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉

★各回終演後に約30分間のアフタートークを開催。
新潟公演のチケットを持っていれば別日程でもトークのみ参加も可能。希望者はチケットの半券を持参のこと。
〈登壇者〉
12/15(金)17:00 金森穣×原田敬子
12/16(土)15:00 山田勇気+Noism1メンバー×鼓童メンバー
12/17(日)15:00 井関佐和子+Noism1メンバー×鼓童メンバー

問合せ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル
TEL 025-224-5521(11:00-19:00 / 休館日除く)

【神奈川公演】
2024年
1月13日(土)16:00
1月14日(日)15:00

会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉

問合せ:
りゅーとぴあチケット専用ダイヤル
TEL 025-224-5521(11:00-19:00 / 休館日除く)
チケットかながわ ※神奈川公演のみ
TEL 0570-015-415(10:00-18:00 / 年末年始休業)

【岡山公演】
2024年1月20日(土)16:00

会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ〈大劇場〉

問合せ:岡山芸術創造劇場ハレノワ
TEL 086-201-2200

【熊本公演】
2024年1月25日(木)19:00

会場:市民会館シアーズホーム夢ホール〈大ホール〉

※熊本公演のみ『お菊の結婚』の上演なし。鼓童による特別コンサートを予定。

問合せ:熊本県立劇場
TEL 096-363-2233

【詳細】
Noism×鼓童『鬼』公演特設WEBサイト

投稿 【12/15開幕!Noism×鼓童「鬼」】井関佐和子/平田裕貴・小松崎正吾(鼓童)インタビュー〜太鼓と踊りのせめぎ合い。「斬らねば斬られる」ような緊張感。生のエネルギーをぜひ劇場でバレエチャンネル に最初に表示されました。



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