【動画&写真レポート】開幕!新国立劇場バレエ団「ドン・キホーテ」リハーサル&主役インタビュー

Videographer:Kenji Hirano

2020年10月23日(金)より、いよいよ吉田都新舞踊芸術監督率いる新国立劇場バレエ団の新シーズンがスタートする。

開幕を飾るのは『ドン・キホーテ』。今回は久しぶりのオーケストラ生演奏付き、そして客席もイベント収容率緩和に伴い、「前後左右を空けた50%」ではなくほぼ全席を販売しての上演となる。

この演目は本来ならば大原永子前監督のラストシーズンであった2020年5月に上演されるはずだったものの、新型コロナの影響で公演中止に。
「これは大原前監督の思いのこもったプログラムだった。団内のダンサーたちだけで日替わりキャストを組み、初役デビューのダンサーもいる。前監督が“最後にこのダンサーたちの、この舞台を見たい”と願った、その思いをそのまま引き継ぐかたちで、今回上演することにした」という吉田監督。
その結果、主役を何と6組ものキャストが代わるがわる務めるという、まさにバレエ団の新たな船出にふさわしいオープニングとなった。

バレエチャンネルでは、開幕を間近に控えた10月半ば、リハーサルにいよいよ熱が入る稽古場を取材。
動画と写真、そして主演キャスト3組のインタビューをお楽しみください。

Interviews
【Interview 1】池田理沙子×奥村康祐
【Interview 2】木村優里×渡邊峻郁
【Interview 3】柴山紗帆×中家正博

写真:瀬戸秀美

「ドン・キホーテ」のリハーサル指導にあたる吉田都新舞踊芸術監督

新シーズンの開幕初日(10/23)を飾るのはこのカップル! 米沢唯&井澤駿

米沢唯。澄んだ明るさを感じさせる踊りで、観ているこちらを幸せな気持ちにしてくれる

あまりにも素敵な伊達男、井澤駿。別日にはエスパーダ役も踊るもよう

抜群の華とパートナーシップ、小野絢子&福岡雄大は10/24夜公演と11/1(楽日)に登場!

小野絢子。一つひとつのポーズも、その間をつなぐステップも、どの瞬間も美しい

福岡雄大。パ・ド・ドゥのサポートは力強くて紳士的、そしてソロを踊り始めると爆弾級のど迫力

木村優里&今回がバジル・デビューとなる渡邊峻郁は10/24昼公演に登場する  ★ふたりのインタビューも間もなく掲載します

「ふたりで組むのはほぼ初めて」という新鮮な組み合わせ、柴山紗帆&中家正博は10/25に出演 ★ふたりのインタビューも間もなく掲載します

いきいきと物語を紡いでいく池田理沙子&奥村康祐の組は10/31昼公演に登場 ★下記インタビューも併せてお楽しみください

【Interview 1】池田理沙子×奥村康祐

リハーサルの様子を拝見しましたが、本当に楽しそうに踊っていらして、見ていて幸せな気持ちになりました。
奥村 新しいシーズンをこうして何とか無事にスタートできたことに、とても感謝しています。ほんの数ヵ月前までどうなるか本当にわからなかったし、今年いっぱいの公演が全部なくなるんじゃないかという不安になったこともありました。でもそうはならず、こうして一度はなくなってしまった『ドン・キホーテ』を踊ることができて、いまはとても嬉しいです。
公演が次々となくなっていったあの時期は、本当につらかったでしょうね。
池田 私たちは舞台で表現すること、それをお客様にお届けすることを目標に、毎日毎日練習しています。公演がなくなるということは、表現の場を失うということ。それまで当たり前のように舞台に立てて、お客様に観ていただけていたことが、どんなにありがたかったか……あの自粛の期間は、それを実感する機会になりました。
おふたりはバレエ団の中でもパートナーを組むことが多いですね。そのためか、この『ドン・キホーテ』ではバジルが両腕や片腕で高々とキトリをリフトするシーンがたくさん出てきますが、奥村さんと池田さんはスパッ!という感じで、いともたやすくこなしていたように見えました。
池田 バレエには感覚でやらなくてはいけないこともたくさんあるのですが、その感覚が、康祐さんと一緒だととてもつかみやすいんです。瞬時にジャストポイントを見つけられるというか。

奥村 パートナーシップというのは、2人でひとつの造形物を作るということです。喩えて言うなら、違う種類の2本の花をひとつの花瓶にいかにきれいに生けることができるかどうか、ということ。そこが、理沙子さんとはとてもスムーズにできるようになってきたと思います。

おふたりはそれぞれ、どんなキトリ像、バジル像を思い描いて演じていますか?
奥村 物語の舞台であるスペインのバルセロナは海が近くて、空には明るい太陽がある。そんな街に暮らしているバジルも根っから明るくて、みんなを引っ掻き回せるくらいのパワーの持ち主だとイメージしています。ちょっと遊び人ではあるけど男らしい面もあって、たとえばお祭りでは先陣きって「だんじり」に乗るタイプというか(笑)。お金や地位があるわけでもなく、本当に普通の“街の兄(あん)ちゃん”だけど、みんなが思わずついて行きたくなる。そんな魅力を持った人なのかなと思っています。
だんじり! いい喩えですね(笑)。そんな“兄ちゃん”的なバジルが、第3幕のグラン・パ・ド・ドゥでは少し表情が変わるというか、グッと“大人の男”という印象になりますね。
奥村 新国立劇場バレエ団のバージョンでは、あの場面はキトリとバジルが貴族の家で結婚式を挙げている、という設定なんですね。そういうシチュエーションだと普通は緊張して硬くなると思うのですが、バジルはその反対。すごく気持ちが上がって「いいところを見せてやる!」と思えるタイプなんじゃないかなと僕はイメージしています。
池田さんはどのようなキトリ像を?
池田 『ドン・キホーテ』って演技をする部分がとても多いのですが、吉田都芸術監督から「その振付やマイムでキトリが何を言っているのか、セリフを全部書いてみるといいわよ」とアドバイスをいただきました。だからいま、一つひとつ全部ノートに書き出してみているところです。キトリはものすごくパッションがあって、どこにいてもパッと目が引きつけられるような華のある女性。お茶目でいたずらっぽい一面もあるけど、心の中にはずっとバジルがいると思うんですね。そんな一途さや、ドン・キホーテがドルシネア姫と見間違えてしまうような気品みたいなものも根底にはあるのかな……など、いろいろ考えているところです。
セリフを考え、それをノートに書き出していくと、やはり役の見え方が違ってくるものですか?
池田 そうですね。ノートに書くことで、だんだん整理ができてきたように思います。私は新国立劇場バレエ団で『ドン・キホーテ』全幕に出演すること自体が初めてなので、とくに演技の面で、「こうやって、ああやって……」と、つい振りを追うだけになりがちなんです。でも、まずは気持ちがあって、だからその動作に至るのだということ。そこをちゃんと自分の中に落とし込まないと、どうしても不自然に見えてしまうのだというところを、都さんに教えていただいています。

リハーサルを拝見すると、おふたりは本当に自由に、心から楽しんで踊っているように見えるのですが、じつは難しいと感じていることもあるのでしょうか……?
池田 はい、むしろ難しすぎます(笑)。
そうですか! 例えばどんなところが難しいのでしょうか。
池田 まず、体力面はひとつの課題です。キトリは第1幕からずっと全力疾走しているような感じで、そこから酒場の場面があって、ドゥルシネア姫として踊って、最後にグラン・パ・ド・ドゥ。これを踊りきるにはかなりのスタミナが必要で、さらには場面ごとに少しずつテイストを変えなくてはいけないので、本当に難しいですね。

奥村 この作品でのバジル役は第1幕からずっとお芝居の要素が強くて、最後のグラン・パ・ド・ドゥで純粋に踊りの魅力を見せるのですが、そこまではずっとお芝居で物語を引っ張っていくというのが難しいですね。とくに、コメディなので。先ほど理沙子さんが言ったこととも重なりますが、コメディって“自然”に見えないとおもしろくないんです。自分から「ね、おもしろいでしょ?!」って仕掛けていくと、逆にお客様には絶対に笑ってもらえなくて、確実に滑ります(笑)。だから、あくまでも自分は大真面目にやっているだけなのに、端から見ていると何だかおもしろい。そういう空気感を作るのが、本当に難しいですね。

確かに、おもしろさの押し売りみたいになると、観客はしらけてしまいそうです。
池田 そこの塩梅が、すごく難しいです。ハプニングというのはそこで初めて起こるから“ハプニング”なのだし、そのとっさのリアクションがおもしろかったりするのだと思うんですね。でも、私たちはもう何が起こるのかを知っている。なのに毎回、まるでいま初めて起きた出来事であるかのように演じなくてはいけないというのは、やはり難しいですよね。

奥村 しかも、毎日練習してるしね(笑)。

池田 本当に新鮮な気持ちで、毎回真っ白な気持ちで臨まないとダメなんですよね。でも油断するとつい、次の展開に対してすでに構えているような演技になってしまって……。

なるほど。練習すればするほど失われていく新鮮さを、いかに保つか。それを日々練習しているということですね。深い!
奥村 はい。毎回新鮮に見えるように演技の精度を上げていく練習、という感じですね。不思議な言い方ですけど(笑)。
踊りのテクニック面でも難しいところはありますか?
奥村 もちろんです。難しい振付がたくさんありますし、とくに最後のグラン・パ・ド・ドゥでは、バレエとしての美しさを見せなくてはいけないので。
奥村さんはその第3幕グラン・パ・ド・ドゥのヴァリエーションの最後に、見るからに難しそうな、しかもあまり見たことのないような回転技を入れていますよね。
奥村 あれはかつてウラジーミル・ワシーリエフさんがやっていたテクニックです。昔、ワシーリエフさんに直接教わった高岸直樹さんに、僕も教えていただいたことがあったので、せっかくなら入れたいなと思って。

キトリがコーダで見せるグラン・フェッテも、池田さんのはアームスの使い方に工夫があってユニークですね。
池田 私はまだ、いろいろ試してみているところです。フェッテはバレリーナによっていろいろな回り方があるのですが、やはりみなさんがあまり見たことのないような、少しおもしろいものをお見せしたいと思って。もうひとつ私自身が難しいと思うのは、その前のヴァリエーションです。とくに難しいテクニックが入っているわけではなくて、簡単にやろうと思えばできてしまうパばかりなのですが、あの細かい足さばきをいかに繊細に運べるか、というところにあのソロのすごさがあると思うんです。
こちらのバージョンの振付では、細かいパ・ド・ブーレ・クーリュの繰り返しがあったりと、トウシューズを履いて踊るバレリーナならではの素敵なステップがたくさん入っていますね。
池田 そうなんです。素晴らしいロシア人バレリーナの方などを見ると、あのシンプルな振りだけで本当に迫力があるので、それをどうすれば表現できるのかを追求したいなと思っています。
最後に、今回は久しぶりの生オーケストラ付き全幕バレエです。いまの思いを聞かせてください。
奥村 たくさんのお客様が観に来てくださることを、心から感謝しています。誰にとってもつらいことの多い時期ですが、劇場の中ではすべて忘れられるように、僕たちも精一杯踊りたいと思います。

池田 吉田都監督が率いる初めてのシーズンの開幕として、本当にものすごいエネルギーを感じられる作品です。お客様にもぜひ一緒に盛り上がって楽しんでいただけたら嬉しいです!

★他組のインタビューも随時更新していきます!

公演情報

新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』

日程
2020年10月23日(金)19:00 オペラパレス
2020年10月24日(土)13:30 オペラパレス
2020年10月24日(土)19:00 オペラパレス
2020年10月25日(日)14:00 オペラパレス
2020年10月31日(土)13:00 オペラパレス
2020年10月31日(土)18:30 オペラパレス
2020年11月1日(日)14:00 オペラパレス

予定上演時間:約2時間35分(休憩含む)

会場 新国立劇場オペラパレス
詳細 https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/donquixote/
その他 オンライン配信企画あり。詳しくはこちら

 

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