放送日:2020年9月5日(土)AM10:00~11:00
▼BS-TBS「ドキュメントJ」
https://www.bs-tbs.co.jp/news/documentj/
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先日、初めてりゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館にて、Noismの新作「春の祭典」「Fratres III」「Adagio Assai」のプレビュー公演を観に行きました。
プレビュー公演ということなので、作品について詳しく言及するのは控えめにしておきます。「Fratres III」「Adagio Assai」は、今週末、9月6日開催の
「サラダ音楽祭」で、東京芸術劇場において、東京都交響楽団との共演で上演されます。
白川神社に隣接したりゅーとぴあは、実に美しい劇場で、夕日に照らされた姿も、展望カフェから見た夕日も魔法のよう。ホームグラウンドのあるカンパニーって素晴らしい。
コロナウィルス感染予防対策のため、客席も減らされていたが、本拠地ならではの親密で温かい空気。地元の観客のみなさんが待ち望んでいた舞台ということが伝わってきた。舞踊家たちからも、本拠地だからこそのリラックス感と、だからこそ本気のパフォーマンスを見せるという気合が感じられた。そして、それぞれの作品は研ぎ澄まされていた。
Adagio Assaiはラヴェルの同名曲を使った井関佐和子、山田勇気のデュオ。パートナーリングはあっても視線がなかなか交わらないのが切なくもどかしい。ソーシャルディスタンスの時代の孤独と痛ましさを感じた。二人の美しい瞬間を切り取ったような映像がスクリーンに時間差を置いて映し出されるのも効果的。のびやかな井関佐和子の動きには目を惹きつけられる。
Fratres IIIは、昨年夏に上演されたFratres I (群舞)と冬に上演されたFratres II(金森穣のソロ)を合体させてところがありつつも、金森穣の圧倒的な存在感と気合に打ちのめされる。静かだが力強い群舞も崇高さを感じさせて心震える体験だった。
「春の祭典」はNoism実験舞踊ならではの攻めた部分を改めて実感する。ありとあらゆる振付家が挑んできた題材だが、過去のどの作品にも似ていない。だけど初演を行ったニジンスキーの精神が確かに息づいている。彼のこだわった円形のモチーフ、内またの立った姿、無数の跳躍。彼の遺伝子が引き継がれたような作品。ロックダウン期間に踊りたくても踊ることができなかった舞踊家たちが、やがてエネルギーを爆発させるところはカタルシスとともに、切なさも感じずにはいられない。現代人の病理と抑圧を描いているように感じられ、コロナの時代に相応しいものとなっていた。完全版を観ることが待ち遠しい。
本拠地ではこの公演を最後に去るメンバーもいた(翌日の公演が最後、そしてサラダ音楽祭が本当のサイトになるメンバーもいる)、当初予定されていた公演が中止され、ブランクの後にようやく舞台に立つことができた喜びと感慨が表情には表れていた。いつまでも終わらないカーテンコールの中でじんわりと観客の心に染み入った。
ホームグランドのあるカンパニーというのはそれだけで素晴らしい。自分の住む街に、専属の舞踊団がある、それはやはりその街の誇りになると感じた。新潟駅のぽんしゅ館で到着早々日本酒飲みながらお店の方と話したら、Noismのことをよく知っていて地域活動をしたりワークショップも始めて頑張ってるよね、と語っていて嬉しかったです。ましてやそれが、一流の振付家、多国籍のダンサーたちを揃えた創造的な精鋭集団であるのだから。そんな人たちがこの街に住んで、これからはクラスだって開いてくれる、何という素敵なことだろう。