トランプ合衆国大統領が、全米芸術基金と全米人文科学基金を廃止する意向

1月20日にアメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ。

そのトランプは、もともと文化芸術および読書には関心がないことは広く知られていました。

米国の政治専門紙ザ・ヒルによると、トランプは就任したらすぐに文化芸術に関する予算を大幅に減らす計画であるとのことです。政権移行チームは、ホワイトハウスのスタッフとのミーティングの中で、全米芸術基金(NEA)と全米人文科学基金(NEH)を閉鎖すると同時に、公共放送機構を民営化することを明らかにしました。

Trump Reportedly Plans To End National Arts Funding
http://www.huffingtonpost.com/entry/trump-reportedly-plans-to-end-national-arts-funding_us_5880de61e4b070d8cad0e184?

ザ・ヒルの報道によれば、保守派のシンクタンク、ヘリテージ財団が昨年公開した政権の青写真に近いものとなるとのことです。このシンクタンクはトランプの新生政権を形成する上で大きな影響力を持っているとされています。

「バランスのための青写真:2017年連邦予算」において、ヘリテージ財団は、NEAとNEHを閉鎖することについて1ページずつ割き、文化への公共投資を支援する人々を震え上がらせました。

ヘリテージ財団の青写真では、「政府は文化組織や活動を支援するために納税者の税金を使うべきではない」としてNHEを廃止すべきだと主張しています。また、NEAについては、「芸術のために納税者が負担を行うことは必要なことでもなければ賢明なことでもない。納税者は、その魅力や利益にかかわらず演劇や絵画、華やかなショー、学術雑誌のために税金を払うことを強制されるべきではない」としています。

ハフィントンポストは、NEAとNEHの広報担当者にメールで取材を試みましたが、このレポートについてコメントをすることは拒否されました。

NEAとNEHは1965年にリンドン・ジョンソン大統領が署名した法律に基づいて設立されました。科学技術の革新と発見によって急速に進歩する時代において、人文科学と芸術に対しても軽視せずに注目を続けるというムーブメントに対応したもので、大学がSTEM教育(科学・技術・工学・数学)に焦点を当てて人文科学への予算配分を削減している現代においても、必要なものと考えられています。

ヘリテージ財団の青写真は、芸術文化に対する資金はフィランソロピーによって置き換えられるべきであるし置き換えることは可能だとしているものの、NEAとNEHは独自の目的を有しています。個々の芸術への寄付に依存することは、人文科学の組織やクリエイターを、富裕層(たとえば自身の肖像画を何千ドルも払って購入するトランプや、お気に入りのオペラハウスに何百万ドルも寄付する裕福なニューヨーカー)の意のままにすることです。

NEAやNEHは、恵まれないコミュニティにおいて芸術や人文科学を支える役割を、州や地方の組織と組むイニシアチブを行ってきました。数あるレビューや反対意見に耐えうるような提案を提出してきた組織や個人に対しては、政府の予算は拠出されてきました。NEHは、16ものピュリッツァー賞受賞作品の誕生やドキュメンタリー映画の制作を支援してきたし、NEAはサンダンス映画祭の創立に貢献してきたのです。

このレポートに対して、人権団体PENアメリカは、これらの削減について「新しい暗い時代」の兆候であると批判しました。「2団体の廃止が検討されていること自体が、私たちの活気に満ちた文化に不吉な影を落としています」

もちろん、NEAとNEHを閉鎖することは、1月21日に発表された大統領令ほど単純なことではありません。政府機関への削減は、国会の承認が得られなければなりません。今月、選挙民が電話で陳情したことにより、共和党の議員たちが、議員の不正行為を調査する議会倫理局の独立性を奪い、権限を事実上弱める方針を撤回させたように、ザ・ヒルで報道された大幅な削減に反対する選挙民は、これを推進する議員たちに対抗することは可能だと考えられます。人文科学にとっての「暗い時代」の到来を憂慮する人々にとっては、NEAとNEHの閉鎖に反対する陳情の電話をかけることは明快で実践的な手段です。

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同様の報道は、ワシントン・ポスト紙にも掲載されています。

A Trump attack on the arts would be more than just symbolic
https://www.washingtonpost.com/news/arts-and-entertainment/wp/2017/01/19/cutting-the-nea-is-first-move-to-eliminate-a-free-open-public-realm/

この記事によれば、ヘリテージ財団は「NEAは、文化エリートにとっての福祉機関である」ともったいぶって定義づけているとのことです。(記事を書いたのは、ピュリッツァー賞を受賞した、ワシントン・ポスト紙の文化/建築批評家Philip Kennicott)



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