バレエ・アム・ライン 中ノ目知章さん記者懇談会

9月に「白鳥の湖」を引っ提げて初の来日公演を行うバレエ・アム・ライン

オデットとジークフリート(C)Gert_Weigelt

ドイツ国内の評価が非常に高く、2013〜2015、2017年にはドイツのバレエ雑誌『tanz』で最優秀カンパニーに選ばれています。そして芸術監督マーティン・シュレップァーも振付家、芸術監督として高く評価され、2020年9月からはマニュエル・ルグリの後継者としてウィーン国立バレエの芸術監督に就任する予定です。

バレエ・アム・ラインは昨秋10 月にドイツにてマーティン・シュレップァー演出『白鳥の湖』を発表。チャイコフスキーが 1877 年に制作した原典譜を採用し、またその当時の初版台本に基づいて登場人物を設定するなど、オリジナルを尊重しつつ 単なる古典への回帰ではな く、きわめて普遍的な人間ドラマに仕立て上げ、不屈の名作をに新しい息吹をもたらしチケットも完売。ヨーロッパバレエ界では話題作品となりました。

来日公演のプロモーションのため、バレエ・アム・ラインのソリストである中ノ目知章さんの記者懇談会が開かれました。中ノ目さんは、シュレップァーのウィーン国立バレエ芸術監督就任に伴い、2020年9月にウィーン国立バレエに移籍するとのことです。

中ノ目知章

1992年生まれ、神奈川県 出身。 現在 27歳。
児玉克洋、宮木百合子に師事。
2007年 第18回全日本バレエコンクール、第 40回埼玉全国舞踊コンクールに於いてジュニアの部第一位。
2008年 ハンブルクバレエ学校よりスカラシップを得て 2年間留学。 ジョン・ノイマイヤー、ケヴィン・へイゲンらの指導を受ける。
同校卒業後、ドルトムント劇場と契約、その後キール劇場、ノルウェー国立バレエ団 、そしてハーゲン劇場所属を経て現在ドイツ・デュッセルドルフ /デュイスブルクに拠点を置くバレエ・アム・ラインソリストとして活躍中 。
今秋9月のバレエ・アム・ライン初来日公演 シュレップア―版『白鳥の湖』ではオデットの継母の側近役予定 。


ジークフリートと友人たち(C)Gert_Weigelt

Q. 今まで所属していたカンパニーとバレエ・アム・ラインの違う点は?

中ノ目:今まで所属していた劇場の中でも、環境がとても恵まれています。バレエスタジオが5つあり、サウナやジムもあり、マッサージなど身体のメンテナンスを受けられるところがすべて整っています。またカンパニーのレパートリーが今までいたカンパニーの中で一番充実して幅広いです。また、監督自身がクラスレッスンを週に一度してくれてお手本を見せてくれます。今までのカンパニーの中でも一番成長できたと思います。レパートリーはシュレップァーの作品だけではないのですが、彼はぼくを始め団員に合わせて振付けてくれるということもあり、みんなもぼくも彼の作品が一番好きです。

バレエ的、というのはちょっと表面的なところがあるので、彼はもっと人物を掘り下げようと思っていて、「パーソナリティ、パーソナリティ」と言ってそれぞれの個性を踊りに出してほしいと言っています。ぼくはなかなか出せないので、そこは普段のレッスンで出せるように努力しています。

Q.シュレップァー版『白鳥の湖』の特徴は?

ぼくなりの解釈になりますが、クラシック・バレエは綺麗に踊らなければならない。 衣装も飾り付けられていたり、特に“白鳥の湖”といえば白いチュチュを着た女性がアラベスクをしていたりという印象を持っている方が多いと思いますが、 マーティン・シュレップァーが見せたかったのは、 美しさだけではなくて、つねに“陰と陽” の美しさです。ぼくは女王の側近という悪役なので、バレエ的な美しさではなくて、人にある陰と陽を見せる部分にも美しさを見せているのが特徴だと思っています。表面的なものではないところに焦点を当てたような。踊っていてつらいところもあります(笑)中から出てくるものがないといけないのですが、つねに出せるわけではなくて。それが出せるととても心地よいです。ほかのバレエ団だと、グループで踊るときには揃っていれば良かったりしますが、ここでは、出演者一人一人が自分の個性を出さなければなりません。

オデットの継母とロットバルト(C)Gert_Weigelt

Q.今回踊る「女王の側近役」は、悪役ということですが、ロットバルト的な役なのでしょうか?

普通の『白鳥の湖』だと悪役のロットバルト役は1人ですが、マーティンはロットバルトよりも継母役に焦点を当てています。継母の側近は4人のダンサーが演じていますが、継母も側近も全員アジア人で統一されています。マーティンはアジア人に対してリスペクトがあって、黒髪のアジア人の持つ陰の部分を視覚的にも引き出せるキャスティングだと思います。振付のときにマーティンから役についての、このシーンにはこういう意味があるのでこう踊れといった振付の細かい説明は一切なく、 指導の際にはそのダンサーから出てくる感情をしっかりと引き出して踊って欲しいと強く求められています。 

側近役という悪役を悪く見せるというより、 自分の中にある“陰”を意識して、自分自身であることを意識し、内から出てくる“悪”を自分の中から引き出して見せることを大切にしています。 

(C)Gert_Weigelt

Q.マーティン・シュレップァー版の「白鳥の湖」を一言で表すと?

「白鳥の湖という物語の奥深いところを見ることができる」ということだと思います。“ただ観て終わる”というのではなく、 “観てから考える”ということをお客様にゆだねているところがあります。 クライマックスも観た人の解釈にゆだねられるています。観て内側を覗き込むような感じの作品です。

マーティン・シュレップァー (C)Gert_Weigelt

Q.マーティンはどのように指導してくれますか。 踊る側としてはどんなことを要求されますか?

マーティンは普段のレッスンでも全力で踊ることを求めてきます。筋肉を伸ばしきることを求められます。クラシックのポジションからは一切離れていないのですが、レッスンの中で自分を見つけ出すことを求められています。他のバレエカンパニーでのバーレッスンは作品を踊るためのウォームアップでしたが、 マーティンのレッスンはその概念が覆されました。 バレエというと“形として綺麗に踊ること”が求められがちですが、 マーティンは綺麗に踊るというよりも限界への挑戦や筋肉の使い方を意識した実用的なレッスンで、普段鍛えられた肉体を爆発させる場です。また普通は舞台の上ではミスをしない方がいいのですが、彼は、舞台の上でミスすることを恐れないでほしいと言います。リスクを冒すことを恐れないで 失敗してもいいので全力で踊るようにという気持ちがマーティンにはあります。失敗しないために少し簡単に踊ると怒られますね。毎日フルMAXで踊ることの積み重ねで、 舞台に立った時にも作品の演出・振付を全力で出すことができていると思います。彼はフィギュアスケートをやっていたので、筋肉の強さがダンスだけしかやっていない人よりもあり、優れたダンサーだったそうです。

ロットバルトとオディール(C)Gert_Weigelt

Q.バレエ・アム・ラインで引き出してもらったものは?

バレエはやはり脚が重要で、ぼくはあまり脚が伸びるタイプではなかったのです。脚の伸ばし方をすごくマーティンに教えられました。脚がしっかりしてくるとしっかり立てるようになります。上半身も安定するので、この間ブルノンヴィルのセミナーに参加した時にも、難しい振りが苦になりませんでした。簡単に言うと付け根から脚を使うことです。やはり全部の脚の筋肉を使わないと伸ばせません。普段のレッスンの中で、毎回、骨盤から上を引き上げられて、こういう風に伸ばすんだと触って指導されました。マーティンから君は凄くいいダンサーだから、と励ましてもらって、それが力になっていると思います。せっかくいい脚をもっているのだから、もっとフィジカルに使ってほしいと言われますね。レッスン終わっても気軽に話していい、と言われているのでオフィスに気軽に行って相談に乗ってもらえる人です。リハーサルで手を抜くと呼び出されて「まじめにやれ」と怒られますが(笑)。

芸術監督がカンパニークラスを指導するというのは、ドイツでも他に例がなく、彼が指導するクラスの時にはダンサーたちは特に気合を入れていますね。ぼくは週三回ジムに行き、そのまま朝来てクラスレッスンを受けるのではなく、2時間前に来て身体をほぐしたりストレッチしたりしているのが助けになっています。マーティンと出会って思ったのですが、ありのままの自分を出すのが大変で大事で、それがダンスを作り上げていると思います。

Q.音楽がオリジナル版ですが、やはり見慣れた白鳥の湖とは合わせ方が違うと思いますが。 

マーティンは音楽にはとてもインスピレーションを得ていると思います。そのため振付と音楽が合っていると感じます。オリジナルの音楽のCDを聴くとテンポが、普通のバレエの舞台での音楽より速いのです。このオリジナルのテンポを使ったのだと思います。レッスンの時に、この踊り方はバレエっぽいからやめて、と言われたりもしました。それはマーティンのバレエを踊る上で必要ないことだからだと思います。今までマーティンの作品で「くるみ割り人形」や「眠れる森の美女」などのチャイコフスキー三大バレエはありませんでした。小澤征爾さんの指揮した「白鳥の湖」にインスピレーションを受けてこの作品を振付けたとのことなので、よっぽど衝撃的だったんではないかなと思います。今回の指揮者である小林資典さんもドイツ、ドルトムントで活躍されていて、ドイツで活躍されている日本人の指揮者と一緒に日本で仕事できることはとても楽しみです。

(C)Gert_Weigelt

Q.このプロダクションの魅力と登場人物について教えてください 

王子のジークフリートを始めそれぞれのキャラクターの個性が現れています。王子だと心境の変化がとても繊細に描かれています。強さだけでなく弱さも見せていると思います。一般的な王子というよりも、心の変化や葛藤が見えてくる人間味のある役どころだと思います。僕は側近役としてオデットをいじめる役なので、できる限りオデットには悲しんで欲しい。ですがオデット自身もとても強い女性として作られていると思います。踊る人によっても役の解釈が違ってくるので、今回のダブルキャストでのダンサーそれぞれの個性の違いも見どころです。1回だけでなく、 2回、3回と観て欲しいです。 

オデットの継母と従者たちを前に力を失う白鳥たち(C)Gert_Weigelt

Q,バレエ・アム・ラインで初来日公演を行うについて 

来日公演ができるとは考えてもいなかったので、ありがたいことです。日本で公演ができると聞いたときは「本当かな」と思いました。ツアー公演で台湾やスペイン、イスラエル、スコットランドなどには行ったことがあるのですが。今まで日本の振付を踊ることはありましたが、ドイツのバレエ団の振付を日本で踊ることはなかったのでとても楽しみです。 マーティンは、バレエ・アム・ラインを世界一のバレエ団にしようと頑張ってきましたし、ぼくは世界一のバレエダンサーになろうと思っています。劇場にぜひお越しいただき、 “ドイツの芸術”を感じて欲しいです。 

公演名: バレエアムライン マーティン・シュレップァー演出 「白鳥の湖」
出演: バレエアムラインライン・ドイツ・オペラ バレエカンパニー)
演出: マーティン・シュレップァ―(バレエアムライン芸術監督/振付家)
指揮: 小林資典(ドルトムント市立オペラ 第一指揮者)
演奏: シアターオーケストラトーキョー(東京公演)/大阪交響楽団(兵庫公演)
東京公演: 2019年9月20日(金)18:30開演(17:45開場)
      2019年9月21日(土)11:30開演(10:45開場)
      2019年9月21日(土)18:30開演(17:45開場)
       Bunkamura オーチャードホール
兵庫公演: 2019年9月28日(土)15:00開演(14:15開場)
       兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
料金: S席 ¥20,000/A席 ¥17,000/B席 ¥14,000 /C席 ¥11,000 /D席 ¥8,000/SS席 25,000
    ※未就学児入場不可
主催: 関西テレビ放送、 BS日テレ、 キョードーマネージメントシステムズ
協力: WOWOW
後援: 在日ドイツ商工会議所、 ドイツ連邦共和国大使館
招聘・企画・制作: 関西テレビ放送、 キョードーマネージメントシステムズ

※バレエ・アム・ライン 日本公演アンバザダー #真飛聖 と #マーティン・シュレップァー によるアフタートークショーの開催が決定しました。
【開催日】東京公演:9/21(土)11:30公演 終演後 ※「白鳥の湖」上演時間は11:30〜14:15を予定。

 



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