◆◆レビュー・インタビュー◆◆『Clementia Vol.3』ホリプロのプロデューサーが語る舞台裏

 「一流アーティストの技を気軽に楽しむ」ステージを今回も爽快に見せてくれた大人のエンターテイメント感満載の舞台。第2幕はリラックスしたムードの中での技を競う真剣勝負で、会場との一体感を演出した。

 特に大貫勇輔と田代万里生の競演が光り、俳優でもあるふたりは演技・表現力においても際立っていた。田代はポップからオペラまでピアノ伴奏も披露する多彩さで圧倒。東京藝術大学在学中に本格的にオペラデューを果たしただけある実力を見せつけ、まさに水を得た魚のよう。
 大貫はコンテンポラリー、ジャズダンス、ブレイクダンスなど様々なジャンルのダンスを披露し、大技の連続で観客を魅了。舞台を牽引する役割をきっちりこなし、キラキラしたオーラを放っていた。

 本公演シリーズを生み出した、ホリプロのプロデューサー・吉永千紘がインタビューに応じてくれた。

― 前作の『Vol.2』ではダンサー・舞踊家の3人の構成で、今回はミュージシャン4人の音楽色が濃い舞台となった。Vol.3のキャスティングの狙いはどんなところにあったのだろうか?

『クレメンティア』は大貫勇輔のチャレンジ企画なので、まずは大貫が今回何に挑戦するのが良いかと考えました。昨年の公演では、日本舞踊とバレエとコンテンポラリーで同じ振りを踊ったときのそれぞれの個性がとても面白かったので、今回はもっと違うアプローチを出来ないかと考えていたところ、構成・演出・振付の川崎悦子さんからホリ・ヒロシさんの人形はどうかとご提案いただき、大貫が人形と一緒に踊ったらきっと面白くなると思い、即オファーさせていただきました。

 音楽チームに関しては、昨年ご出演いただいた藤原道山さんとSINSKEさんは普段Duoを組まれていますので、まさに息がぴったり合った舞台になりました。逆に今回は、全く接点のなさそうなメンバーを集めてみたいと思いました。
 田代に関してはアクティングと音楽との中立的な立場で、「声」という楽器でこの作品に参加してもらったら新しい刺激になるだろうと考えました。
 また余談ですが、年齢の幅があったほうがより面白いかなと思い、20代、30代、40代、50代、60代、それぞれの年代からキャスティングしました。

― プロデューサーとして一番困難だった点は?

 これは毎回のことですが、やはり「ジャンルの壁を超え、相手を受け入れる」ということは並大抵のことではありません。稽古ひとつとっても、試行錯誤の連続でした。たとえば、ジャズピアニストのクリヤ・マコトさんは即興の世界の方なので、何日間も稽古をするという概念がありませんでした。

 音楽チームの中でも、楽譜をきっちり作るアコーディオン奏者の桑山哲也さんに対して、クリヤさんが見ているのはコード、浅野祥さんの三味線は五線譜ですらありません。和と洋で拍子の取り方も全く違います。

 また、大貫はダンサーなので音楽チームに希望を出すときに、振付を早回しで踊って見せてくれて「ここの振りの部分に、音が欲しいんですけど…」というような表現をするのですが、他のメンバーにはどれがどの部分なのか…さっぱり理解できません!(笑)。
 ひとつのことを話し合うにも、何重にも通訳が必要な状態で、お互いに忍耐力を必要とする時間のかかる作業でした。

― まさしく狙い通りに上手くハマッた部分は?

 それぞれがお互いの表現をリスペクトし、困難な状況の中でも最後まで投げ出さずに、相手の表現を活かそう・受け入れよう・楽しもうとすることができ、ひとつの作品を創り上げることができた点です。

― 今だから語れるVol.3の制作秘話をぜひ!

 稽古の初期は田代と大貫の2人だけだったので、2人がすべての役の代役も演じ稽古をしていました。音楽チームが稽古に合流したのは稽古後半からなので最初は演技をすることに少し戸惑っているように見えましたが、最終的にはとても楽しんでやってくださっていて嬉しかったですね。

 クリヤさんは当初、何を弾いてもリズムがスウィングしていて(笑) さすがジャズピアニストという感じでした。ホリさんにしてもクリヤさんにしてもベテランの方が本当に前向きに稽古に取り組んでくださったこともあり、稽古場は常に良い雰囲気でした。

― 次の『Clementia Vol.4』の構想は?

 色々とアイディアはありつつ、まだまとまっていないのですが、エンターテイメント界を飛び出して、別の世界で活躍されている方を起用したバージョンもいつかやってみたいと思っています。

 毎回和楽器を必ずひとつは入れたいと思っているのですが、尺八、三味線にご登場いただいたので次は何の楽器に参加していただくか考えて行きたいと思っています。まだ誰も観たことがないような、新しいものを創っていきたいですね。

〈 『Clementia Vol.4』2016年12月9日~11日 天王洲銀河劇場 〉




 



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