◆◆レビュー評◆◆文・乗越たかお 〈踊る。秋田2016〉石井漠・土方巽記念 国際ダンスフェスティバル

 

  ~秋田にスタンディングオベーションを巻き起こした『ダークネス・プンバ』~ 

 石井漠・土方巽記念 国際ダンスフェスティバル〈踊る。秋田2016〉の目玉のひとつとして上演されたのが、キム・ジェドク率いるモダン・テーブル『ダークネス・プンバ』である。この公演の前週にはロンドンの名門ザ・プレイスで大成功を収めている。「プンバとは乞食が物乞いをして回る時に歌ったもの。悲しいが、どこかユーモアもある。泣きながら笑う、そういうやるせない気持ちが込められている」とジェドクは言う。

 男ばかりのダンサーたちはずば抜けたテクニックとスピードの持ち主だ。ジェドクの振りは、スピードに乗せて、さらに細かい手や首のニュアンスが織り込まれていく。パワフルであると同時に、薄氷の上を全力疾走するような、フラジャイルな魅力に溢れている。やがて客席に置かれたマイクの前に歌い手が登場し、野太い声でプンバ(乞食歌)を歌いだすと、ジェドク自身も相対して立って歌い上げ、劇場全体を熱気の渦に巻き込んだ。

 さらに秀逸なのは後半だった。舞台の上に、等間隔に金属製で長い韓国の箸が置かれる。床にひざまずき、一列になったダンサーたちは、まるでタップダンスのように箸で床を突くリズムを刻みながら踊るのだ。韓国の伝統的な精神文化である「恨(ハン)」は、どうしようもないほどの過酷な現実や理不尽さに身がネジ切れるような思いを歌や舞に込める。一見すると現代的でスタイリッシュなジェドクの振り付けにも、その根底には恨が深く渦巻くことが、否応なく伝わってくる。

 そして終演となるや、なんと自然にスタンディング・オベーションがわき起こった。ディレクターの山川三太すら「秋田で初めて見た」という。土地と時空を超えて魂が呼び合う夜だった。

〈2016年11月1日 秋田市文化会館大ホール /文・乗越たかお〉

 

写真提供:『踊る。秋田』実行委員会



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