セルリアンタワー能楽堂にて2008年より上演している『伝統と創造シリーズ』。
2017年2月に行われた第8回目の「狂」は、マルセイユ・バレエ団でリハーサル・ディレクター、ダンサーとして活躍している遠藤康行の演出・振付で開催された。
女の嫉妬や情念をテーマに、古典文学『道成寺』と能の「鉄輪」をモチーフに『DOJYOJI+』と『KANAWA』の2作品を上演。『DOJYOJI+』では能楽師の津村禮次郎とオーディションで選ばれたダンサーたちとのコラボ、『KANAWA』は遠藤康行、酒井はな、梅澤紘貴の初共演でも注目を浴びた。
本公演は、ヨーロッパ唯一の能楽堂フランスのエクス・アン・プロバンスにて、2010年より3回に渡り『DOJYOJI+』の前身となる作品を発表し好評を得、日本での公演が実現した。
『DOJYOJI+』C) 瀬戸秀美
『DOJYOJI+』はあえて激しく限界ギリギリの振りで構成することによって、どこまでも追いかけてくる執拗な情念のエネルギーを表現しました。女が男を振り回したり追い倒したりと、女性ダンサー達がいつもやらないようなムーブメントを探し創り上げていったので、青あざが絶えずとにかくフィジカル面でも大変だったと思います。
Q:音楽も非常に創り込まれていて、踊りと調和をしていました。
音楽の創作過程はどんな感じで行われたのでしょうか?
音楽は各作品のコンセプトに合わせてDILLさんと密に話し合いながら少しずつ同時進行で創っていきましたので、動きや構成と綿密にリンクすることができました。
『DOJYOJI+』はフランスで創作したときの大まかなイメージを残しつつ、シーンなどは新しく構成しながら創っていきました。感情がどんどん燃え広がり、巨大な大蛇になって自らをも止められず紅蓮の炎となって燃え上がるイメージなど、音楽で表現していってもらいました。
『KANAWA』は実際の能舞台の金輪で唄われる「くどき」という唄の部分、しかし「くどき」と言いつつも呪ったような歌詞なのですが、この唄をミックスしてこの作品のテーマに使いたいと思いました。
『DOJYOJI+』C)瀬戸秀美
Q:酒井はなと梅澤紘貴の初共演となりましたが、振付・演出家からみてふたりの印象は?
はなさんはいつも華やかなで可愛らしいオーラで客席を魅了しているイメージがありましたが、今回はその真逆な感じの女の怨念を表現してもらおうと思いお願いしました。
作品に対する創造力と感性は素晴らしく、演出の裏に潜む解釈などにも敏感に自分なりに取り組む姿勢とそれを実際舞台上で表現してみせる実力は感嘆すべきものがあります。
梅沢さんとは初対面だったのですが、甘いマスクと柔らかい人当たりでふわっとしていながら、毎回リハーサルで行った振りを次のリハではちゃんと消化し、常にグレードを上げてどんどん作品を自分のものにしてゆくダンサーだなと思いました。本番では作品を細かく理解し落ち着いていて頼りになる存在でした。
Q:『KANAWA』で予想通りにうまくいった点はどんなところでしょうか?また新たな発見は?
予想通りというのは舞台上で実現するのはなかなか難しいと思いますが、『KANAWA』では3人のキャラクターとKANAWA人形さらにライティングのトリックなど色々なエレメントが絡み合っているので、すべて上手くいくか心配な面もありましたが、その緊張感が舞台上で良い方向にいったと思います。
『KANAWA』の新たな発見としては、能本来の舞台の状態で踊ることで普通の舞台とは違う空間の魔力を感じました。また、すごく滑るのですがそれを逆に利用して、滑る振りを多用したりと普通のリノリウムの舞台ではできないような動きが生まれました。
『KANAWA』C) 瀬戸秀美
Q:制作秘話をぜひ!
今回の舞台は情念や怨念を表現しているので、リハーサル期間中にダンサーが怪我や病気に見舞われる事態があったりしてすごく心配になり、とにかくお参りに行こうと色々な神社に行きました。
そのおかげかどうかわかりませんが、無事に最後まで舞台を上演できることができて本当に良かったです。
そしてこの場を借りてこのプロジェクトに関わってくださったスタッフ、ダンサー、お客様、皆様に感謝いたします。有難うございました。
〈2017年2/17(金)~19(日)セルリアンタワー能楽堂〉