中村恩恵インタビュー『ベートーヴェン・ソナタ』、いよいよ3月18日開幕!

 来週3月18日、19日の本番を控え、本公演の振付を担う中村恩恵の声をお届けしたい。
新国立劇場バレエ団とのコラボ第2弾ととなる『ベートーヴェン・ソナタ』のキャストは、首藤康之、
福岡雄大、井澤駿、本島美和、米沢唯、小野絢子など錚々たる顔ぶれが並ぶ。

Q:ベートーヴェンはご自身にとってどんな音楽家なのだろうか?

非常に偉大な音楽家です。誰しもベートーヴェンの音楽にはどこかで触れたことがあると思います。
『交響曲第5番』『月光』『交響曲第9番』、また『エリーゼのために』などの主旋律は、
多くの人にとって親しいものなのではないでしょうか?

私の父がヴァイオリン製作者という環境もありまして、子供のときからクラシック音楽には
特別な愛着があります。私にとって創作の一番のインスピレーションは、音楽によってもたらされますが、
実際に振付に音楽を用いる段階では、常に非常に強い抵抗を感じます。

特に今回、ベートーヴェンの音楽を用い、かつ彼の人生を描く舞踊作品を創ることに深い畏れを抱いています。
ではなぜ、敢えてこのような題材の作品を創ることにしたのでしょう。
これまでの芸術の修業の道程で、時として行き詰まりの袋小路に独り往き悩んでいるようなことがありました。

その様なときに、意図せぬ機会にベートーヴェン音楽に触れることが度々ありました。
そして「新しい力」が身体に注がれるような感覚を音楽鑑賞の最中に体験することが幾度となく重なったのです。

『ベートーヴェンの音楽により引き起こされるこの特異な身体感覚の訪れは一体何を意味するのか、
そしてこの「新しい力」はどこから遣って来るのか?』
個人的な体験に関してのシンプルな疑問が、今回の創作の出発点となりました。

Q:ベートーヴェンの正式な名前は「ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン」ですが、
キャスト表によると、ルートヴィヒ:首藤康之、ベートーヴェン:福岡雄大の配役となっています。
この狙いは?

ベートーヴェンの音楽が私個人にもたらす力の意味を探るべく、独学にて色々と模索する中で、
「ベートーヴェンの日記」(メイナード・ソロモン編)に出合いました。
日記を読み始めて直ぐに、「おまえは自分のための人間であってはならなぬ」という一行がありました。

このダイアローグ的なモノローグが、目の覚める鮮烈な一撃となりました。
「おまえ」と語りかける「わたし」、「おまえ」と語りかけられる「わたし」…
自己が引き裂かれたものとしての人生を生きた「ベートーヴェン」を描きたいという想いが生まれました。
醒めた者としての「私」が見つめるもう一人の「私」=「おまえ」…
この両者を首藤さんと福岡さんに演じて頂きます。

Q:首藤さんと福岡さんは初共演になりますが、おふたりそれぞれに期待されることは?

キャスティングは常に「閃き」です。ベートヴェンの後期の弦楽四重奏を聴いていて、
その音楽に宿る深い安堵感と明晰な明るさに首藤さんを想い、激しく心身に刻み込む様な
側面に雄大さんを想いました。
おふたりには私の想いを越えた時空にて自由に羽ばたいて頂きたいです。
そしてハッとと驚かせて欲しいです。

Q:最後に、本作の見どころをお願いします!

先ほど引用しました、ベートーヴェンの日記の中の言葉は、
「おまえは自分のための人間であってはならなぬ、ひたすら他者のためだけに」と続きます。
今日、多くの地域にて不寛容で利己的なものの考え方が台頭して来ています。
奉仕の精神の宿る香り高いベートーヴェンの音楽に助けられ、舞踊が持つ力 ― 国籍や人種
そして時代を越えて人の心と心を直に繋ぐ力ーを最大限に引き出すことが出来るよう願いつつ
作品を創っています。

新国立劇場バレエ団の可能性に満ちたダンサー達と共に進める創作作業は、
非常にクリアーティブで喜びに満ちたものです。
この過程から、どのようなものが生まれてくるのか私自身もとても楽しみにしています。






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http://dancerssupport.com/hot-topics/news/1318/

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